研究課題/領域番号 |
23H00740
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
上水流 久彦 県立広島大学, 公私立大学の部局等(広島キャンパス), 教授 (50364104)
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研究分担者 |
中村 八重 東亜大学, 人間科学部, 客員研究員 (00769440)
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 教授 (10612567)
藤野 陽平 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50513264)
木村 至聖 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (50611224)
平井 健文 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (60846418)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 植民地主義 / 遺産化 / 建築物 / 記憶 / 消費文化 / 大日本帝国 / 歴史認識 |
研究実績の概要 |
台湾、パラオ、韓国、中国東北部、オーストラリア、北海道などの日本国内で現地調査を行い、遺産の観光資源化が進む事例について資料を収集するとともに現地調査ができなかったサハリンについては、史資料から観光資源化について分析を行った。 具体的には、旧南洋群島については、サイパンとパラオにあった南洋庁医院の分析を行い、植民地遺産の利活用と植民地統治の記憶の関係について検討を行った。また、台湾では①古蹟指定を受けているキリスト教会と、②日本統治期に建てられその後廃墟になることで「お化け」が出るという噂のある建物を対象に現地調査等を行った。さらに日本から神を勧請し正式な神社とし、観光資源化を図った桃園忠烈誌の事例を集中的に調査を行った。中国東北部については、大連における日本植民地時代に残された古蹟の全体像の把握のため、古蹟が破壊されたのか、活用されているのか、あるいは文化財として認定されているのか、その基本的調査を実施した。北海道では網走監獄に調査を行い、オーストラリアの囚人遺跡群の事例との比較を行った。また、サハリンの記憶に関する史資料を収集した。 オーストラリア国立大学で開催された植民地遺産に関する国際ワークショップに参加し、欧米の遺産と本科研が対象とする大日本帝国期の遺産との比較研究を行うデータ的、理論的蓄積に努めることができた。 これらの研究に基づき、韓国の観光事業者の視点から大日本帝国期の建築物の観光資源化に関する対日意識や台湾の帝国期建造の神社の観光資源化、さらには満州帝国の国策と映画政策、遺産とメディアの関係、台湾で祭祀される日本統治時代に亡くなった日本人への信仰に関する論文執筆や学会発表などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している理由として、以下の二点をあげることができる。一点目であるが、本研究では、植民地遺産が娯楽性を備え、消費文化の対象になることを記憶の「風化」として否定するのではなく、新たな記憶の継承の形として当該社会の人々が取り込んでいく技法と捉え、人々が植民地支配を如何なる経験に変えているのか、すなわち経験の次元での脱植民地化の可能性を検討すことを目的としている。その研究の焦点は、議論の重要な焦点は「何を」保存するかより、むしろ「どのように」表象(カフェ等にすることも含め)するかに変化しているであるが、それに関する基本的な資料を初年度に収集することができている。実際、比較対象とする、遺産の消費文化化の浸透程度が異なる日本の旧植民地(台湾、韓国、中国東北部、パラオ、サハリン、北海道、沖縄)での調査において、サハリンと沖縄以外は現地調査を実施できた。 二点目だが、本研究では、①植民地遺産の消費文化化のプロセスと負の歴史の継承への質的影響の解明、②shared heritageに見る脱植民地化の可能性の検討、③住宅や教会、廃墟との比較研究にみる植民地遺産の特殊性の鮮明化を具体的な研究課題としているが、①について消費文化化がかなり進展している台湾、韓国、日本で調査を実施することができ、消費文化化があまり進んでいない中国東北部やサハリン、パラオ等との比較が可能となりつつある。②については、対日観が異なる台湾と韓国や中国東北部での調査が進んでおり、この点でも順調に進んでいる。③についても、台湾と日本にある教会の調査が進み、廃墟については台湾やサハリンでの調査が実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度調査できなかったサハリンや沖縄などの調査を行えるようにする。また、すでに調査できた国については、同じ国内でも消費文化化された遺産とされていない遺産との比較を行い、国単位のみならず、個別事例をみることで消費文化化と負の記憶の継承の相克について理論的見通しをたてるよう、今後していく。 課題として挙げた3点については以下のように考える。「植民地遺産の消費文化化のプロセスと負の歴史の継承への質的影響の解明」については、行政担当者や施設運営者等の聞き取りから如何なる植民地遺産が消費文化化され、負の歴史と娯楽性の両義的な表象がその継承にどのような質的変化を与えるのかを明らかにする。次に「shared heritageに見る脱植民地化の可能性の検討」ついては、日本人の植民地遺産への観光を現地の人々は如何にとらえ、日本人はその行為を如何に認識しているかを明らかにしていく。「住宅や教会、廃墟との比較研究にみる植民地遺産の特殊性の鮮明化」については、植民地期の建築物に居住する人々の他、教会の関係者、蓄積的記憶の場である廃墟への訪問者への聞き取りを行い、負の歴史に娯楽性が共存する植民地遺産の記憶の在り方との差異を明示する。理論的には、保存や活用をめぐって様々な立場からの論争を呼ぶいわゆるdissonant heritageについて国内外の比較研究を行なう。
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