研究課題
グロモフ・ウィッテン不変量は複素多様体あるいはシンプレクティック多様体の中の「正則な曲面」の個数を数えて得られる不変量であり,それらを係数として,グロモフ・ウィッテンポテンシャルと呼ばれる母関数が定義される.本研究はグロモフ・ウィッテンポテンシャルを解析接続して得られる大域的な関数の性質やその大域的な関数が定義される定義域(ケーラーモジュライ空間)を調べることを目標としている.特に,互いに双有理同値である多様体のグロモフ・ウィッテン理論が(ポテンシャルの解析接続を通じて)互いに関係しあう現象の解明に重点をおくものである.この研究は双有理幾何学や導来圏の幾何学とも強く関係し,グロモフ・ウィッテン不変量による双有理幾何・導来圏の幾何への応用も視野に入れたものである.本年度は最も基本的な双有理変換である,滑らかな中心に沿ったブローアップの下での量子コホモロジー(種数0のグロモフ・ウィッテン理論)の変化を調べた.その結果として,滑らかな射影多様体 X の滑らかな部分多様体 Z に沿ったブローアップの量子コホモロジーD加群が,X の量子コホモロジーD加群と,Z の量子コホモロジーD加群の(余次元ー1)個のコピーとの直和に形式的に分解されることが証明された.本結果は双有理幾何学への応用,特に,多様体の有理性問題への応用が期待される.上の結果を導くうえで鍵となったのは同変量子コホモロジー上の同変シフト作用素の与える差分構造である.この差分加群の構造をフーリエ変換することにより,幾何学的不変式論的商(GIT商)の量子コホモロジーが得られると予想される.ブローアップをGIT商の変動として記述し,予想を特別なGIT商の場合に解決することにより上記の結果が得られた.
1: 当初の計画以上に進展している
長年未解決であった,量子コホモロジーに対するブローアップ公式が得られた.この結果は双有理幾何への多くの応用が期待されている.
ブローアップの下での量子コホモロジーD加群の形式的分解が明らかになったが,この結果を解析的な分解に持ち上げ,導来圏やガンマ整構造との関係を明らかにしていきたい.さらに,より一般の双有理変換の下での量子コホモロジーの変化,シンプレクティック商の量子コホモロジーに対するTelemanの予想(のD加群版),高種数グロモフ・ウィッテン不変量の双有理変換の下での変化,などについても研究を進めていく.
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 10件、 招待講演 12件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
International Congress of Mathematics
巻: Sections 5-8 ページ: 2552~2574
10.4171/icm2022/156
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~iritani/