研究課題
ダイヤモンド結晶中のNV中心を高感度な磁場量子センサとして用いるイメージング手法を開発し磁性体へ適用することが本研究の目的である。2023年度は以下の成果を得た。(1) 量子スピン顕微鏡に用いるダイヤモンド基板におけるNV中心生成技術について取り組み、質の向上が得られた。現在、様々な条件で作製したNV中心の性質を系統的に調べている。(2) 我々の量子スピン顕微鏡ではダイヤモンド越しに試料を測定することが多い。その際、ダイヤモンドの屈折率に由来する光学収差を考慮するため、実験と数値シミュレーションにより最適なダイヤモンドの条件を求めた。(3) ACゼーマン効果を利用することによりNV中心の共鳴周波数付近に限定されずより広帯域にAC磁場を検出しイメージングする手法を開発した。NV中心におけるACゼーマン効果自体は実証されていたがイメージング測定への適用は本成果が初めてである。(4) 量子スピン顕微鏡の開発において超伝導における磁束量子は格好のベンチマークとなる。微小超伝導体における観測を行い、磁束量子の検出感度向上に資する技術的知見を得た。(5) 圧力下における磁場計測のためにNV中心含有ナノダイヤモンドを用いた圧力・磁場測定を行った。(6) NV中心のスペクトルが温度を敏感に反映することを利用し、機械学習(ガウス過程回帰)を用いた温度推定手法を開発した。(7) カイラル反強磁性体における磁壁の観測を行った。そのデータの詳細な解析を進めた。(8) 六方晶窒化ホウ素(hBN)におけるホウ素空孔欠陥もNV中心と同様な量子センサとなる。ヘリウムイオン顕微鏡を用いて作製を行い、最適な条件を求めた。
2: おおむね順調に進展している
ダイヤモンド基板作成の知見が得られたこと、超伝導体の量子渦についての論文が出版されたこと、ACゼーマン効果を利用したイメージングができたこと、カイラル磁性体の磁壁の観測が達成されたこと、などから、本研究は順調に進んでいると判断する。
本研究では、イメージングを行うためにダイヤモンド表面(数10nm以内)にNV中心が密集し、かつ、メゾスコピック素子に密着させるために表面が平坦な「NV中心アンサンブル基板」を準備する必要がある。このような基板の作製については世界でも数グループが取り組んでいるが、未だ手探りの段階である。我々はこれまでに、基板の熱処理・イオン注入・洗浄・ミリングなどの地道なレシピの改善を行ってきた。今年度は昨年度に得られた知見を元に基板の性能を評価しつつ、フィードバックしていく。また、NV中心を用いた超伝導量子磁束の観測について昨年度は論文発表を行ったが、その後も、解析手法や測定対象について新しい試みを続けている。今年度はダイナミクス測定へと進みたい。ファンデルワールス強磁性体やメゾスコピック磁性への適用については昨年度から開始しており本年度も継続する。カイラル磁性体については解析が相当進んできたので成果発表も行っていきたい。
[新聞報道]「東大、hBN欠陥量子センサーをナノ配置 微小な局所磁場計測」(日刊工業新聞 2023年6月19日20面)[アウトリーチ]小林研介、「量子力学と量子計測」、研究室訪問(2023年8月28日)。対象:高校1年生8名・小林研介、「ナノテクノロジーと量子力学」、令和5年度「東大の研究室をのぞいてみよう!~多様な学生を東大に~」(2024年3月26日)。対象:高校生、参加者約100名。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (45件) (うち国際学会 20件、 招待講演 5件) 備考 (4件)
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