研究実績の概要 |
ペロブスカイト型チタン酸化物の一つである、チタン酸ストロンチウム (SrTiO3) は、低温の誘電率が、20,000 を超える量子常誘電性を示しますが、Srの一部を同価数異種イオンのCa, Ba等で置換すると、強誘電体に変化させることができます。一方、酸素欠損 (d) の導入等により電子ドープを施すと (SrTiO3-d)、極めてわずかなキャリア濃度 (n) でも金属となり、極低温にすると、超伝導 (臨界温度 Tc ~ 300 mK) を示します。 そこで、Srの一部をCa, Baで、同時にTiの一部をNbで置換すると、強誘電体に電子ドープを施すことになります。本研究では、浮遊帯域溶融 (floating zone; FZ) 法により、Ba, Nb による置換を施した Sr1-yBayTi1-xNbxO3 (0 < x < 0.02) 単結晶を作製し、Ba置換量 (y) を1.5%から7.5%に変化させ強誘電キュリー温度 (TFEC) を変えながら、極低温における輸送現象の評価などを行って、強誘電性が超伝導に与える影響を探索しました。 Sr1-yBayTiO3 の TFEC は、~25 K (y = 0.015), ~35 K (y = 0.025), and ~70 K (y = 0.075) のように変化します。それぞれの場合について、電子ドープを施し、強誘電性が消失するキャリア濃度 (n*) を評価しました。y = 0.025, 0.075 については、極低温における輸送現象の評価を行い、どちらの場合も、n ~ n*の時、Tc が最高値を示すことがわかりました。特に、y = 0.075 の場合、n ~ n* となる x = 0.007 の時、チタン酸ストロンチウム系のTcとしては最高値となる、Tc = 0.75 K に達することを見出しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまで、BaおよびNb置換によって、強誘電キュリー温度 (TFEC) およびキャリア濃度 (n)、それぞれを独立に制御できる Sr1-yBayTi1-xNbxO3に焦点を当て、Ba置換量を変化させてTFEC を変えながら、単結晶を作製し、輸送現象の評価を行ってきている。Ba置換量 y = 0.025, 0.05 and 0.075 については、極低温における輸送現象評価までを完了させ、超伝導転移温度 (Tc) のキャリア濃度依存性 (Tc vs. n 曲線) を確立した。現在、y = 0.015 について輸送現象の評価、y = 0.1 について単結晶の育成を進めている。 また、SrをEuに置き換えた EuTiO3 も量子常誘電酸化物で、SrTiO3 の場合と同様、Euの一部をCa, Baで、同時にTiの一部をNbで置換した、Eu1-yAEyTi1-xNbxO3 では、強誘電体の生成やそれに対する電子ドープを施せると考えられる。現在、レーザダイオード加熱による浮遊溶融法により、元素置換を施さない EuTiO3 単結晶の育成に成功した。
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