研究課題/領域番号 |
23H01137
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐久間 由香 東北大学, 理学研究科, 講師 (40630801)
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研究分担者 |
山本 一徳 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特任助教 (00801937)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 膜流動性 / 膜粘度 / ベシクル / 初期胚 / 細胞膜 |
研究実績の概要 |
細胞膜における膜流動性は、生体機能の発現を制御する重要な因子であり、これまでに脂質のみから成るモデル細胞膜を用いて盛んに研究されてきた。一方、生きた細胞膜は糖鎖などによる膜表面の修飾や脂質分布の非対称性,膜内外での溶液粘度の非対称性など複雑な構造を持つ。さらに、細胞骨格から力学的揺動を受けた非平衡状態にあり、細胞の生死によってその流動特性に大きな違いがあることが予想される。本研究では「生きている細胞膜と無生物であるモデル細胞膜の流動性は何が違うのか」を明らかにするため、モデル細胞膜に糖鎖に見立てた高分子をグラフトし、膜粘度への影響を調べた。その結果、膜にグラフトする高分子濃度が高くなると膜粘度は高分子をグラフトしない膜の8倍程度まで大きくなることがわかった。さらに、グラフトした高分子同士の相互作用が膜粘度上昇に寄与していることを理論的な観点から明らかにした. この成果は専門誌Biophysical Journalに発表した [Sakuma et al., Biophys. J. (2024]]. また、生きている細胞膜と細胞骨格の相互作用について実験的に明らかにし、細胞骨格の状態がの膜流動性に大きく影響することを明らかにした。さらに、モデル細胞膜と細胞膜のギャップをつなぐために細胞から細胞表層のみを単離したGiant Plasma Membrane Vesicle (GPMV)の作製技術を習得した。これによって、今後は細胞, GPMV, モデル細胞膜のそれぞれの膜粘度測定をすることで、その差異から生物と無生物の違いについて膜流動性の観点から明らかにする足掛かりができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、モデル細胞膜と生きた状態の細胞膜双方の膜粘度測定が順調に進んでいるため。さらに、本年度の成果から本研究最大の問いである「生きている細胞膜と無生物であるモデル細胞膜の流動性は何が違うのか」を明らかにするには細胞膜から単離したGiant Plasma Membrane Vesicle (GPMV)の膜粘度測定も必要だと判断した。GPMVを得る技術を習得し、膜粘度測定にも着手することができたため本研究は概ね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞を用いたトップダウンの立場からは、前年度から引き続き、線虫C. elegans初期胚の細胞膜粘度測定実験を行う。細胞では、外部からの流れを当てて細胞膜の流動を生じさせるのに細胞骨格であるアクチン繊維の形成阻害をすることが必要であることが分かったため、細胞膜との関連が考えられる細胞表層のアクトミオシンネットワークの構造を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察する。また、未受精卵と受精卵の比較に適したモデルである、カタユウレイボヤ卵を用いた細胞膜粘度測定実験に着手する。モデル細胞膜を用いたボトムアップの立場からは、高分子溶液などの高粘性溶液をモデル細胞膜内部に封入し、水などの粘性の低い溶液中にトランスファーすることで膜内外の溶液の非対称性を実現し、細胞内外の溶液の粘度の非対称性が膜粘度に及ぼす影響を調べる。また、細胞から単離したGiant Plasma Membrane Vesicleの膜粘度を測定し、モデル細胞膜および生きている細胞膜の膜粘度と比較することで、生きている細胞膜とモデル細胞膜を繋ぎ、それぞれの流動性の違いとその要因を明らかにする。
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