研究課題
本研究の目的は中性-電離大気の結合が強い高度100km-120kmの領域で、観測ロケット搭載観測機器による中性・電離大気の局所詳細観測を行い、突発的な高電子密度層(スポラディックE層)の形成過程における中性風と粒子間衝突の役割を定量的に理解することにある。従来、電離圏下部の高電子密度層の観測は行われてきたが、我々は観測ロケットに搭載する7つの測定器により世界で初めて中性大気、イオン、電子、電場、磁場の全てのパラメータを直接同時観測する予定であり、本研究の独自性はこの点にある。2023年度は上に述べた搭載機器中、次の3つの測定器の製作を行った。主な成果は次の通りである1)中性大気観測装置: イオンゲージを真空測定子とし、大気流の入射方向に強く依存して圧力値が変化、入射方向に対する依存性が低く圧力があまり変化しない2種類の真空計により得られた値を比較し背景圧力と大気流の方向を推定する。今年度は電気回路部、センサ部、センサをロケット機体から離して測定するためのブームを製作し、地上で機器の性能評価試験を行った。2)インピーダンスプローブ: プラズマのUHR周波数からプラズマ密度を推定するが印加信号をインパルスまたは白色雑音に変更することで時間分解能を向上させる。今年度は測定器の製作を完了し、電離圏プラズマを模擬した環境下で動作することの確認を行った。3)ラングミュアプローブ: 電流電圧特性取得のための掃引電圧周期を100ミリ秒とし更に数値解析手法に工夫を凝らすことで更に優れた時間分解能でデータ取得を行う。今年度は測定器の製作を完了し、電離圏プラズマを模擬した環境下で動作することの確認を行った。
2: おおむね順調に進展している
2023年度に予定していた3つの観測ロケット搭載用測定器開発の進捗状況は以下の通りである中性大気観測装置はイオンゲージを真空測定子とし、大気流の入射方向に依存する圧力値を表示、入射方向にあまり依存しない圧力値を表示する真空計から構成される。2023年度は圧力を測定するセンサ部、ロケット機体から一定距離離した状態で測定を行うために使用するセンサ取付用ブーム、観測ロケットと観測装置の電気的インタフェースを司る電気回路部の製作を予定通り完了した。その後に行った環境試験の一部、振動試験においてイオンゲージのフィラメント部分が破損するという問題が発生し、その対策を実行中である。問題解決の見通しは得られており、今後行われる総合噛み合わせ試験までに完了する予定である。インピーダンスプローブは従来観測ロケットに搭載されてきたものとほぼ同等であるが、時間分解能向上を目的として白色雑音印加機能を実装したことが新規要素である。2023年度は製作完了後に電離圏プラズマを模擬した環境で性能確認試験を実施し、所定の性能を有していることが検証できた。その後、環境試験を実施し、搭載測定器に要求される耐環境性を有することが確認された。ラングミュアプローブは従来観測ロケットに搭載されてきたものとほぼ同等であるが、解析手法に工夫を凝らし時間分解能に優れたデータにする予定である。2023年度は電気回路部とプリアンプ部の製作を完了し、既存の電極をプローブとして、電離圏プラズマ環境をチェンバー内に生成して性能確認試験を実施、所定の性能を有することが確認された。当初、観測ロケット全体の総合試験は2024年2~3月に予定されていたが、9月に変更された。上記の通り、予定していた環境試験の一部を完了していない測定器があるが、これらは観測ロケットの総合試験までに完了すれば良いので、スケジュール的な問題にはなっていない。
2023年度に製作した測定器の単体での動作確認試験は既に完了している。当初、これらの測定器を搭載しての観測ロケット実験は2024年夏期に予定されていたが、2023年度後期に別途製造が行われたロケットモータ部に問題が見つかったために、機器を組み上げた状態で電気的インタフェースを確認する総合噛み合わせ試験は2024年9月、打上げは2024年11月以降に変更された。本研究としては開発に時間的な余裕が生じたため、動作確認試験の結果をもう一度見直し、必要であれば測定器の改修を行いたいと考えている。改修項目としてはラングミュアプローブの電流利得の最適化、機器内および機器間のノイズ対策の強化等が考えらえる。これに加えて、環境試験の未完了部分の実行、および中性大気観測装置イオンゲージの破損部分を改修しての再試験を行う予定である。これらの環境試験の完了後に、もう一度測定器の性能に変化が無いことを確認するために電離圏プラズマ環境下においてデータ取得を行い、測定器が支障なく動作することを検証する。測定器を搭載した観測ロケットの新たな打上げ時期は2023年冬期または2024年夏期となっている。当初予定よりは少し後ろ倒しになったが、開発した測定器により中性-電離大気の結合が強い高度100km-120kmの領域での中性・電離大気の局所詳細観測を実行し、高電子密度層(スポラディックE層)の形成過程における中性風と粒子間衝突の役割の定量的理解に向けての研究を推進していく予定である。
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