研究実績の概要 |
蒸発や凝縮を伴う気液二相流の解析には,微視的描像に基づいて気液界面における質量流束や温度ジャンプなどを与える境界条件が必要である.しかし,液面から蒸発した直後の気体分子の速度分布に関する知見は乏しく,モデル構築のための障壁となっている.そこで本研究では,気液界面における相変化現象の微視的描像を明らかにすることを目的として,分子線法,第二高調波発生分光法による気液界面の計測と,界面近傍の非平衡気体流れの数値解析に取り組んでいる. 今年度は主に,分子線法による蒸発分子の速度分布計測に関して検討を進めた.得られた飛行時間分布の解析により,蒸発直後の分子は液面温度のマクスウェル・ボルツマン分布と比較して遅い分子の割合が少ないことが確認された.これは過去に他グループによって行われた分子動力学シミュレーション[T. Ishiyama et al., Phys. Fluids 16, 4713 (2004)]と整合する結果といえる.蒸発分子が液面との相互作用ポテンシャルを抜ける際に運動エネルギーが変化することが原因であると考えられるが,物理的描像について更に検討を進めている.また,最近,光照射により気液界面からの蒸発流束が著しく増加する現象が報告されており,その蒸発促進の機構として,気液界面から複数の水分子がクラスタとして脱離するのではないかとの仮説が提唱されている[Y. Tu, G. Chen et al., PNAS 120, e2312751120 (2023)].この仮説の検証を行うため,既設の分子線装置の液面保持部に光ファイバを用いた光学系を追加するための予備実験と装置の設計を進めた.
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