研究課題/領域番号 |
23H01366
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
浅沼 春彦 金沢大学, フロンティア工学系, 助教 (10757298)
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研究分担者 |
原 勇心 東北大学, 工学研究科, 助教 (00979049)
槙原 幹十朗 東北大学, 工学研究科, 教授 (60392817)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | メタ構造 / 構造ヘルスモニタリング / 状態分類 / 無線センサノード / 3軸加速度 / 説明可能なAI |
研究実績の概要 |
本研究では、圧電型の振動発電とメタ構造と無線センサノードの技術を融合し、配線・電源レスで振動抑制と構造診断を可能にする新たな機能構造の実現を目指し、その基礎の構築に取り組んでいる。当該年度は実験セットアップの構築、解析の検証、構造診断の初期検討を実施した。 約1メートル長の梁構造の振動試験と電圧の多チャンネル計測を行う実験セットアップを構築した。また、精密な構造診断を実現する為、6個の無線センサノードから送信される振動波形データを受信可能なサーバを構築した。発電量の分布偏りを低減する剛性勾配型メタ構造の解析法を構築し、実験の初期評価を実施した。その結果、正確な発電分布の同定や振動波のトラップ現象の観測にはより多くの電圧計測が必要である事が分かってきた。また、梁の先端部付近の振動発電素子の発電量は解析予想よりも低く、振動発電素子の配置やパラメータに改良が必要である事が分かった。 無線センサノードを用いた構造ヘルスモニタリングの概念実証の為、損傷が無いもの1種類と損傷位置を変えた4種類の梁構造を作製し、AI解析による分類評価を実施した。振動発電のみで駆動する無線センサノードは3軸の加速度波形データが送信可能である。この3軸の振動データを画像に変換して入力データを作成し、計算負荷の低い層から成る畳み込みニューラルネットワークで分類する手法を開発した。その結果、低い計算負荷で99.9%の高い分類性能を達成した。更に、勾配加重クラス活性化マッピングを用いて解析がデータのどこに基づいて分類を行っているのかを調査した。その結果、ピーク値だけでなく谷のデータも活用している事、高い分類性能は無線センサノードの3軸振動データと1.6kHzまでの広い周波数範囲の計測により、多くの特徴量が提供された為と判明した。開発の無線センサノードにより配線・電源レス構造ヘルスモニタリングが可能である事を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
振動発電で無線センサノード内の電気二重層コンデンサを充電する場合、従来モデルと乖離した特異な充電特性が観測されたが、その解析モデルを構築して現象の解明に成功し、正確な充電特性の予測が初めて可能となった。また、その成果をまとめた論文が審査中である。 1メートルサイズの構造の加振評価や電圧の多チャンネル計測を可能にする実験セットアップの構築、複数の無線センサノードから送信される波形データを受信するサーバの構築に取り組み、実験上の重要な評価設備が整った。しかし、解析との正確な比較や解析から予想される現象の観測には更に多くの振動発電素子の電圧計測が必要である事、また、試験構造物の大型化に伴って計測ノイズが大きくなりノイズの低減が必要である事が分かってきた。本年度にその解決に取り組む。 振動発電で駆動する無線センサノードの構造ヘルスモニタリングの概念実証では、当初90%以上の分類性能を目指していたが、当初の予想を大きく超えた99.9%の分類性能を達成した。これは開発した無線センサノードが3軸の振動波形を計測可能である事、1.6kHzの広い周波数範囲のスペクトルデータが得られる事の2点が大きく寄与している事が分かった。また、説明可能なAI技術の勾配加重クラス活性化マッピングを用いて、3軸の振動データの分類の根拠を解明する事が出来た。概念実証の段階ではあるが、振動発電のみで駆動する無線センサノードで優れた構造ヘルスモニタリングが実現可能である事を初めて実証した。この成果をまとめ、国際学会で口頭発表した。概ね研究目標を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は実験セットアップの改良、無線センサノードの充電速度の高速化、メタ構造の物理モデル式に基づく深層学習法の初期検討を行う。 先の研究成果から、試験構造物の大型化に伴う振動ノイズの低減と更なる多チャンネルの電圧計測の必要性が明らかになり、その解決に取り組む。差動モードで数10チャンネルの電圧計測が可能な機器の候補を2つ選定しており、いずれかの方法で目標の多チャンネル計測を実現する。 振動発電で駆動する無線センサノードにより優れた構造診断が可能である事を実証したが、実環境振動下では波形送信までの充電時間が数時間ほど掛かり、その短縮化が実応用上の課題である。そこで複数の振動発電素子を電気的に接続して高効率にエネルギを回収する手法を開発する。理論モデルを構築して、最適な電気的接続方法と発電回路を選定する。また、生産装置の不良状態を再現した環境振動を用いて加振試験を行い、装置状態の分類評価を通して予知保全の実現可能性を探索する。 無線センサノードを用いた構造ヘルスモニタリングの初期検討を通して、振動波形の計測と送信の基礎が完成した。次の段階として、メタ構造の物理モデル式と深層学習法を融合した解析法であるPINNs(Physics-informed neural networks)を構築し、無線送信された少数の振動波形データから構造の剛性、減衰定数、変位分布を推定して構造全体の状態を推定する技法を開発する。
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