研究課題/領域番号 |
23H01459
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00333906)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スピン機能光デバイス / 半導体量子ドット / 希薄窒化半導体 |
研究実績の概要 |
光デバイスの実用材料であるIII-V族化合物半導体の量子ドットは、電子のスピン情報である向きの偏り(スピン偏極)を室温でも比較的高く保持し、そのスピン偏極を高効率に光のスピン状態である発光の円偏光特性に変換できるという本質的な利点を有する。この利点を生かして、実用上重要な室温で電子と光のスピン情報を超高速で変換可能な低消費電力の光スピン情報技術の基盤を構築していく。 このため、申請者が確立した、室温で動作可能なスピン機能光デバイスや希薄窒化GaNAsとのトンネル結合量子ドットによる電子スピン偏極の増幅、スピン偏極の電界操作などを発展させる。今年度はまず、InGaAs量子ドットの光学活性層を持ち、室温でも動作可能なスピン機能半導体光デバイスであるスピン偏極発光ダイオードやスピン偏極受光ダイオードの高性能化を図っている。各層の膜厚や結晶組成を変えた試料を作製し、その光スピン機能を反映する発光の円偏光特性を測定した。また、半導体中のスピン偏極電子の輸送注入や光スピン信号への変換過程の超高速ダイナミクスを明らかにするため、スピン状態に依存した円偏光発光についてピコ秒領域における超高速時間分解分光を行った。以上の結果より、これらの光スピン素子の高性能化に向けたいくつかの指針を得ている。同時に、様々な強磁性体スピン電極構造を作製するためにマスクレス露光機を導入し、露光とエッチングの条件をテストしている。 通常の非磁性半導体の電子状態にはスピンの偏りはなくアップとダウンのスピン偏極電子数がバランスしているが、以上の研究を推進することでスピン偏極に応じた電気信号を生成検出するスピン機能光デバイスの室温動作性能を研究し、スピン特有の偏極情報を活用する低消費電力かつ超高速の情報処理を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、室温でも動作可能な半導体光スピンデバイスであるスピン偏極発光ダイオードやスピン偏極受光ダイオードの試料を作製した。窒素プラズマソースを持つ分子線エピタキシーにより成長させた希薄窒化半導体GaNAsと光学活性層となるInGaAs量子ドットからなる結合量子井戸について各層の組成や膜厚を変えた積層構造を作製した。さらに各層間あるいは上層に設けたバリア層についても膜厚や組成を変えた試料を作製した。これらにより、半導体層表面に設けるFeなどの金属強磁性体電子スピン電極から、半導体バリアを介して光学活性層である量子ドットに至るスピン偏極電子の輸送やドットへの注入、あるいは逆にドットからの光励起スピン偏極電子の輸送検出において、電子のスピン偏極を高度に保持した輸送やさらにはスピン偏極の増幅機能、ドットへの超高速注入や取り出し過程などを研究した。以上の結果より、これらの光スピンデバイスの高性能化に向けた指針として、特に光学活性層と強磁性体スピン電極間のバリア層の構造や組成と膜厚が重要であるという指針を得ている。 また、上記の研究においては、スピン偏極電子の輸送注入や光スピン信号への変換過程の超高速ダイナミクスを直接的に明らかにするために、電子のスピン偏極状態に依存した円偏光発光についてピコ秒領域における超高速時間分解分光も行った。 さらに、様々な構造を持つ強磁性体電子スピン電極構造を迅速かつ簡便に作製するためにマスクレス露光機を導入し、露光とエッチングの条件をテストしている。 以上より、本研究の目的に沿った進展が図れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、室温で動作可能な半導体光スピンデバイスであるスピン偏極発光ダイオードやスピン偏極受光ダイオードの高性能化を図っていく。希薄窒化半導体GaNAsの室温における電子スピン偏極の増幅機能を生かすための様々な積層構造を検討し、半導体層上部に設ける金属強磁性体スピン電極から、半導体バリアを介して光学活性層である量子ドットに至るスピン偏極電子の輸送やドットへの注入、あるいは逆にドットからの光励起スピン偏極電子の輸送検出において、電子のスピン偏極を高度に保持した輸送やさらにはスピン偏極の増幅機能、ドットへの超高速注入や取り出し過程などを明らかにしていく。特に、本年度に得られた指針である光学活性層と強磁性体スピン電極間のバリア層の構造や組成、膜厚などを最適化していく。同時に、スピン偏極電子の輸送注入や光スピン信号への変換過程の超高速ダイナミクスを明らかにするために、スピン状態に依存した円偏光発光の超高速時間分解分光も継続していく。また、本年度に導入したマスクレス露光機を活用して様々な構造や配置を持つ強磁性体電子スピン電極構造を作製し、上記のスピン偏極光デバイスの性能、特にスピン偏極フォトカレントの検出特性を研究していく。 さらに、半導体クラッド層や光学多層膜などを用いて、これらのスピン光デバイスの発光取り出しや受光の効率を改善していく。また、電子のスピン偏極を電界で制御可能な量子井戸とドットの結合構造を持つ電界効果素子を作製し、GaNAsのスピン増幅機能を組み合わせることにより性能を高め、電界による光スピン信号の高速変調を研究する。 また、これらの光スピンデバイスへの電気信号の入出力における電極構造や高周波対応のインピーダンス整合、電気信号の高感度検出に向けた変調や同期などの信号処理についても検討していく。
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