研究課題
本研究では、トポロジカル物質などの量子物質を対象として、フェムト秒レーザー照射による新規なテラヘルツ波放射現象の探索、ならびに、放射したテラヘルツ波を利用することによる固体の光電流ダイナミクスの新たな時空間分解検出法の開発を主要な目的としている。今年度、数々のトポロジカル量子物質においてテラヘルツ波放射現象の探索を行い、物質のトポロジーに起因する新規なテラヘルツ波放射現象を観測した。例えば、ワイル半金属NbAsにおいて円偏光励起によるテラヘルツ波放射の観測に初めて成功した。テラヘルツ波の偏光状態解析を行ったところ、通常の半導体で生じる光デンバー効果由来のテラヘルツ波放射のみだけでなく、物質中のトポロジーに起因したスピン偏極電流誘起のテラヘルツ波放射を検出した。さらに、CuOにおいては、新しいテラヘルツ波放射機構を発見した。透明媒質における主要なテラヘルツ波放射機構は、二次非線形光学効果による電気双極子放射である。この場合、固体の空間反転対称性が破れている必要がある。一方、CuOは、空間反転対称性を有している。結晶の対称性を考慮した結果、CuOにおけるテラヘルツ波放射機構は、非線形電場による磁化生成に由来する磁気双極子放射であることがわかった。空間反転対称性を有する結晶においても、非線形光学効果が現れ、それを起源とするテラヘルツ波放射が生じることは、予期しなかった発見である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の目標に掲げていた、数々の量子物質からのテラヘルツ波放射現象の観測に成功したのみならず、新しいテラヘルツ波放射機構として、従来では考えられてこなかった電場誘起の磁気双極子放射が有望であることを発見した。上記の成果は当初の計画以上のものと言える。
テラヘルツ波放射波形をもとに、電流ダイナミクスを抽出する研究を進める。さらに、他の物質系においてもテラヘルツ波放射現象を探索する。特に、励起レーザーの波長をチューニングすることにより、高効率かつ高強度のテラヘルツ波放射現象の観測にも挑戦する。
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Communications Materials
巻: 5 ページ: 26-1-13
10.1038/s43246-024-00451-1
応用物理学会M&BE誌
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