研究課題
本研究は,道路網-周辺施設のレジリエンス強化のための土構造物の耐降雨性能向上と予知保全技術の確立を目的とし,1) 降雨変状対策,2) 土砂災害対策,3) 予知保全技術の3つを研究する.2023年度は,降雨変状対策に関して,a) 排水パイプの長期排水性能と機能回復技術,b) ハイブリッド排水施設の有効性検証について研究を実施した.a) 排水パイプに関する研究では,内部浸食実験を行った.一連の実験では,土試料の下に排水パイプの一部を模擬した孔板を設置し,浸透作用を与えた際に孔板から流出する土試料の量や供試体全体の透水性を計測した.さらに,内部浸食前後の土構造の変化をμX線CT装置で観察した.主要な結果は以下のとおり.a-1) 土試料が密な条件では,集水孔サイズに関わらず,土の流出はほとんどなく,透水性もほとんど変化しなかった.a-2) 土試料が緩い条件で,集水孔サイズが小のとき,土の流出はほとんど無かったが,浸透作用で細粒分が孔板付近に移動し,透水性低下が顕著になった.a-3) 土試料が緩い条件で,集水孔サイズが大のとき,土の流出が顕著になり,供試体の不安定化が進行した.b) ハイブリッド排水施設に関する研究では,浸透模型実験を行った.一連の実験では,排水対策条件を変化させた模型盛土に背後から浸透作用を与えた.主要な結果は以下のとおり.b-1) 無対策ケースでは,浸透作用によって法尻部から進行的に破壊が生じた.b-2) 排水パイプのみのケースでは,法尻部から始まる進行性破壊を抑制できなかった,b-3) 変形抑制工のみのケースでは,盛土内水位が高くなった際,変形抑制工よりも上部ののり面変状を抑制できなかった.b-4) 排水パイプと変形抑制工を併用するケースでは,水位低下効果と変形抑制効果によって,大きな浸透作用下でも盛土の安定性を確保することができた.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,2023年度に予定していた排水パイプの長期排水性能と機能回復技術,ハイブリッド排水施設の有効性検証に関する実験などは概ね完了している.今後は,2023年度に行った実験結果を元にした評価モデルの構築や準備を進めている模型実験を順次実施していく.
2024年度は,降雨変状対策に関して,2023年度の実験結果を元に降雨作用モデルと信頼性評価法の構築を行う.さらに土砂災害対策として,崩壊土砂の流動メカニズムの解明,透過型多重防護施設の有効性の検証のための土砂流動模型実験を行う予定である.以下,概要について説明する.降雨作用モデルと信頼性評価法の構築については,2023年度の浸透模型実験の結果を元に,NEXCOによる水位変化モデル(日下 2019),Dupuit法の拡張による水位分布モデル(宮田ら 2022),および水文モデルと浸透モデルのハイブリッドモデル(森本ら 2017)を組み合わせた降雨作用モデルと,崩壊・堆積による地表面形状の変化を考慮した極限つり合いモデルとを連成させることで構築する.さらに,土木研究所,NEXCO総研,及び国土交通省から報告されている実データをもとに,解析法のバイアス特性を明らかにし,申請者が関与したAASHTO (2022)の部分係数推定法を用いて信頼性ベースの性能評価法を構築する.崩壊土砂の流動メカニズムの解明,透過型多重防護施設の有効性の検証のための土砂流動模型実験については,土構造物を水理作用で変状させることで土砂流動を生じさせ,その流動メカニズムを実験的に解明する.さらに,土構造物の変状に起因する土砂流動の運動エネルギを減衰させ,最終的に防護工でストップさせる透過型多重防御施設の有効性を模型実験で明らかにする.
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ジオシンセティックス論文集
巻: 38 ページ: 91-97
10.5030/jcigsjournal.38.91