研究実績の概要 |
ゼラチンには低イミノ酸含量のスケソウダラ(以下、タラ)ゼラチンを用い、このタラゼラチンを水/エタノール混合溶液に溶解し、2-ピコリンボラン(還元剤)の存在下でデカナールを用いて疎水化した。デカナールの仕込み量を変化させることにより、デシル基導入率の異なるタラゼラチン(C10-ApGltn)を得た。導入率はトリニトロベンゼンスルホン酸法を用いて残存アミノ基から定量し、核磁気共鳴装置(1H-NMR,13C-NMR)、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT-IR)によりデシル基の導入を確認した。得られたC10-ApGltnの水溶液にα-シクロデキストリン(αCD)を添加し、粘度を評価した。C10-ApGltn溶液の粘度は、αCD /デシル基のモル比を増加させることにより減少した。これは、Ap-Gltnに導入したデシル基がαCDによって包接され、デシル基間の疎水性相互作用が阻害されたことに起因すると考えられた。一方、生理食塩水中に浸漬後のαCD/C10-ApGltn接着剤硬化物は、未修飾タラゼラチン(Org-ApGltn)および既存のポリエチレングリコール(PEG)系脳硬膜用接着剤と比較して有意に低い膨潤変化率を示した。また、αCD/C10-ApGltn接着剤のブタ脳硬膜に対する耐圧強度は、Org-ApGltnおよびフィブリン系接着剤と比較して有意に高く、既存のPEG系接着剤と同等であった。HPLCを用いたαCDの定量により、接着剤中のαCDは生理食塩水に浸漬することで接着剤から放出されることが確認された。以上の結果から、αCD/C10-ApGltn接着剤の低い膨潤特性と高い接着強度は、生理食塩水中においてαCDが放出され、デシル基間の疎水性相互作用による自己組織化(物理架橋形成)が促進されたことに起因すると考えられた。
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