研究課題/領域番号 |
23H01726
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
井原 郁夫 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (80203280)
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研究分担者 |
和田森 直 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (60303179)
中田 大貴 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任講師 (80800573)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 超音波サーモメトリ / 加熱界面 / 温度プロファイル / 過渡温度場 / 加工モニタリング |
研究実績の概要 |
R5年度では、超音波による温度計測法(超音波サーモメトリ)の時空間領域の分解能を向上させるべく、ソフトウェアとハードウェアの両面から研究開発を実施した。まず、研究代表者らがこれまでに培った超音波温度プロファイリング手法の改善に取り組んだ。具体的には温度プロファイリング逆解析における非定常熱伝導差分解析に用いられていた陽解法(簡便で計算負荷が低いというメリットがある)に代えて、陰解法を導入することで温度分布解析の精度(安定性)と空間(距離)分解能の飛躍的な向上をはかった。陰解法には中心差分法として実績のあるCrank-Nicolson法を採用した。この逆解析システムにおいて、最適解同定のための膨大な計算負荷による時間損失を十分に抑制できるようなシステムを構築した。 次に、超音波サーモメトリにおける時間分解能(時間応答性)の向上をはかった。ここでは、上述した陰解法のメリットを最大限活かすべく、超音波データ収録において並列処理を導入することで温度プロファイリングの時間分解能を超音波計測システムの限界まで向上させた。具体的には、波形取得とそれ以外の処理(例えば、温度同定精度に直結するエコー波形SN比を向上させるための信号移動平均)を独立させ並列処理することで、波形収録時間刻みを超音波打出周期(限界値)まで短縮した。これを実現するために高速超音波送受信が可能なパルサーレシーバを導入し、ハードとソフトの両面を駆使した高速計測システムを開発した。 さらに、次年度に実施予定の2次元温度プロファイリングでの活用を想定し、8チャンネルパルサーレシーバを用いた8チャンネルパルスエコー同時計測システムの基本構成を構築した。二次元温度場への超音波サーモメトリの適用を検討するために、有限要素法を用いた数値シミュレーションによる2次元温度場での超音波伝播解析を実施するためのシステム環境を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R5年度において、所期の目標に沿った新たな超音波サーモメトリシステムを開発することができた。すなわち、超音波温度プロファイリングのための解析に陰解法を導入し、温度プロファイリングの精度(安定性)と空間(距離)分解能の飛躍的な向上をはかることに成功した。このシステムを用いて高温加熱・冷却材の温度モニタリングを実施したところ、長時間繰り返し加熱・冷却にともなう新たな技術課題(初期条件の不適切性に基づくモニタリング開始直後の同定値の不安定性)が見出された。現在、この対策を検討中である。一方、非定常熱伝導差分解析に用いられている陽解法は簡便で計算負荷が低いというメリットがあり、長時間モニタリングには有益であると考えられる。そこで、繰返し加熱冷却材への陽解法援用温度プロファイリング手法についても検討を進めている。 超音波サーモメトリの時間分解能(時間応答性)の向上に関しては、有効な改善策が見出された。すなわち、超音波打ち出し周期の高速化と、超音波データ収録における並列処理の導入により、温度プロファイリングの時間分解能を超音波計測システムの限界まで向上させることが可能となった。具体的には、波形取得とそれ以外の処理(例えば、温度同定精度に直結するエコー波形SN比を向上させるための信号移動平均)を独立させ並列処理することで、波形収録時間刻みを超音波打出周期(限界値)まで短縮できることが実証された。 さらに、1次元および二次元温度場への超音波サーモメトリ適用に関する事前検討(実行可能性の検討、計測システムの空間設計の検討)として、2次元または3次元の有限要素法を用いた有限空間でのマルチ超音波伝播シミュレーションのための環境を整備中である。 以上のように、当該研究課題は概ね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)温度プロファイリング逆解析手法の改良 これまでに超音波温度プロファイリングに陰解法を導入し、温度プロファイリングの精度(安定性)と空間(距離)分解能の飛躍的な向上をはかることに成功した。一方で、非定常熱伝導差分解析に用いられていた陽解法についても簡便で計算負荷が低いというメリットがあり、本研究課題の目的の一つでもある長時間モニタリングにおける当該手法の活用は有益である。そこで、加熱冷却の繰り返し負荷を受ける加熱材のプロファイリングにも適用可能な陽解法による温度プロファイリング逆解析手法を開発する。具体的には現有プログラムの改良(温度解析の初期条件の付与方法の改良、音速温度依存性の修正・再設定の検討)により、繰り返し加熱冷却される対象物の温度プロファイリングの高精度・ロバスト化をはかる。 (2)マルチチャンネル超音波サーモメトリの開発 マルチチャンネル超音波パルスエコー計測システムを用いて、2次元超音波計測ならびに2次元温度プロファイリングを実施し、その有効性を検証する。400℃程度に加熱される部材への適用を想定し、高温薄膜超音波探触子を複数個購入し、その1次元線形配列によるマルチチャンネル超音波サーモメトリシステムを構築し、その有用性を実験(重力鋳造型による実験)により検証する。 (3)界面熱抵抗の定量評価と鋳造プロセスへの適用の検討 開発した超音波サーモメトリをダイカストなどの金型部材に適用することを想定し、圧接(押付接触)状態にある二つの直方部材に対する適用実験を実施する。加熱モデルとしては片側加熱と内部加熱を検討する。圧接界面での超音波縦波の反射と透過を活用し、当該界面の熱抵抗の定量評価を検討する。このような構造体への超音波サーモメトリの適用は初めての試みであるため、波動伝播解析の数値シミュレーションを交えて検証する。
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