研究実績の概要 |
今年度は,反応場である低融点金属にSnを選択し,リン化物半導体であるGaPの蒸発挙動について調べた。まず,Ga-P-Sn系におけるリン過剰側の液相面投影図および相平衡関係が明確ではなかったため,これを実験的に調査した。Ga/P比が1の試料についてはいずれの温度も液相とGaPの二相平衡が確認され,既報の状態図通りの相平衡関係,液相組成であった。一方,これまで報告のなかったGa/P比が0.33の試料についても二相平衡が確認された。Ga/P比が3の試料については,XRDから二相平衡が確認できたものの,SEM観察において,低融点であるGaが溶解してしまうなどの問題があり,定量的な分析は困難であった。以上のことから,本系においては広い組成範囲で液相とGaPの二相領域の存在が示唆された。 そこで次に,この平衡関係を利用して,二相共存状態からGaPを気相として単離することを試みた。Snの組成を80 mol%ととし,Ga/P比が3, 1, 0.33の3つの試料を作製した。これを石英アンプルに真空封入し,温度差をつけた炉内に設置することで蒸発挙動を調べた。その結果,同時に熱処理したにもかかわらず,Ga/P比が0.33の試料は付着物が顕著に確認された。この付着物をXRD, SEM-EDSで分析を行ったところ,化学量論組成のGaP単相で,Snは0.1 mol%以下であった。一方,他の組成の試料については,付着物が少量であり,分析が困難であった。以上より,単体では気化(昇華)が困難な化合物であっても液相の存在により容易に蒸発すること,さらに平衡する液相の組成によって目的化合物の蒸発挙動が大きく異なることがわかった。
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