研究課題/領域番号 |
23H01740
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷ノ内 勇樹 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40644521)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 錫 / 湿式プロセッシング / アルカリ溶液 / 電気化学反応 / 都市鉱山 / 廃電子基板 |
研究実績の概要 |
本研究は(1)アルカリ溶液および溶存化学種の基礎物性値の解明、(2)ヨウ素酸イオン含有アルカリ溶液による各種金属の酸化溶解反応機構の解析、(3)錫浸出後液からの金属電析機構の解析、(4)陽極におけるヨウ化物イオンからヨウ素酸イオンへの酸化反応機構の解析、を主要課題としている。本年度は研究期間の初年度にあたり、(1)(2)(3)に関する基礎調査を行った。 (1)については、対象とするアルカリ溶液の電気伝導度と密度、粘度が液組成(ヨウ化カリウム、ヨウ素酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの濃度)と液温(25~70℃)に対してどのように変化するかを評価した。その結果、電気伝導度と密度については、液組成、液温との相関関係を定量的に明らかとすることができた。一方、粘度に関しては、測定結果の再現性/信頼性が不十分であったため、その適切な測定方法を含めて次年度も調査を継続する。 (2)については、純錫の酸化溶解速度と腐食電位が、ヨウ素酸イオンとアルカリの濃度、液温に対してどのように変化するのかを明らかとした。さらに、分極測定を行うことで、部分アノード反応と部分カソード反応への影響を評価した。例えば、ヨウ素酸イオン濃度の増加によって、溶解速度は増加し、腐食電位は貴な電位に移行したが、これはヨウ素酸イオンの還元反応における拡散限界電流の増加に起因することが確かめられた。 (3)については、基準となる錫酸浴について、錫電析の電流効率が電流密度と温度に対してどのように変化するかを定量評価した。この知見は、多様なイオンが浴中に混入した際の影響を解析する際の基礎データとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記載した3つの研究課題に取り組み、それぞれについて一定の成果を得ることができた。(1)アルカリ溶液および溶存化学種の基礎物性値の解明については、電気伝導度と密度の評価は完了した。ただし、粘度については、測定結果の再現性/信頼性が不十分であったため、今後さらなる調査が必要である。(2)ヨウ素酸イオン含有アルカリ溶液による各種金属の酸化溶解反応機構の解析については、基本的な評価方法が確立されるとともに、純錫の反応機構について理解が大きく進展した。(3)錫浸出後液からの金属電析機構の解析については、当初の予定通り、錫酸浴からの錫電析の電流効率と浴温・電流密度との関係を把握することができた。ただし、錫電析の反応素過程の解析についてはまだ課題が残った。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は(1)アルカリ溶液および溶存化学種の基礎物性値の解明、(2)ヨウ素酸イオン含有アルカリ溶液による各種金属の酸化溶解反応機構の解析、(3)錫浸出後液からの金属電析機構の解析、(4)陽極におけるヨウ化物イオンからヨウ素酸イオンへの酸化反応機構の解析、を主要課題としている。 (1)に関しては、粘度測定に関する課題の解決を図る。また、アルカリ溶液中のヨウ素酸塩の飽和溶解度、および錫酸イオンと亜錫酸イオンの熱力学パラメータの評価を開始する。 (2)に関しては、実際のスクラップ処理を考慮し、純錫以外の金属(錫合金や異種金属)も含めて反応機構の解析に取り組む。 (3)に関しては、アルカリ浴中からの錫やその合金の電析機構を部分分極曲線をもとに解析する。ヨウ化物イオンや錫以外の金属イオンの共存が、錫の電析過電圧や電流効率、電析形態へ及ぼす影響の明確化を図る。 (4)に関しては、各種分極測定と高速液体クロマトグラフによる溶存化学種分析(ヨウ化物イオンとヨウ素酸イオンの分離定量)を組み合わせることで、ヨウ化物イオンの陽極酸化の電流効率と反応機構が、電極材や浴温、浴組成、電流密度によってどのように変化するかを調査する。
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