研究課題/領域番号 |
23H01747
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
山村 方人 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (90284588)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 塗布 / 乾燥 / 粒子分散 / 応力 / 弾性率 / 液晶 |
研究実績の概要 |
本年度は乾燥する粒子分散塗布膜の力学特性を測定可能な計測系の探索、乾燥膜に対する実験的評価を行った。 まず当初予定に基づいて、分散液内の超音波速度測定に基づくヤング率の計測を試みた。ガラス基材上に球状シリカ粒子分散液を塗布し、乾燥終了後の粒子積層膜について周波数10 MMzでシングアラウンド法による超音波計測を行ったところ、受信波が得られたものの、その波形は粒子積層膜がない場合の基材からの反射波のそれと一致しており、粒子積層膜の構造を反映する情報は得られないことがわかった。そこで計測系を変更し、矩形パルス波を電圧30 V、周波数25 MHzで発信可能な機器を用いた試験測定を試みたところ、粒子積層膜からの反射波を受信可能であり、固体のみならず液体―空気界面からの信号も検知可能であることが明らかとなった。しかし得られた波形から超音波音速を算出するための信号処理は別途検討が必要であり、ヤング率の算出は今後の課題である。 超音波を用いたヤング率の計測結果が妥当であることを検証するため、固体の局所ヤング率測定に一般的な手法であるナノインデンテーションを用いた乾燥粒子積層膜の計測を別途行った。共通利用機器として既保有の微小硬度計を用いた計測結果から、球形シリカ粒子を分散させた高分子溶液を乾燥させて得られる粒子膜のヤング率は、ある初期高分子濃度で極大値を取ること、この極大値は高分子成分の分子量が増加すると消滅することを、新たに見出した。また粒子表面への高分子成分の吸着等温線を別途測定したところ、ヤング率が極大となる組成では非吸着成分の割合が50%を超えることがわかった。そこで高分子吸着が液中の粒子分散状態に与える影響を評価するため、2024年度購入予定であったレオメータを本年度に導入し、定常せん断粘度と動的粘弾性測定による評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
粒子膜および粒子分散液からの超音波を受信可能な計測系の探索に時間を要し、乾燥過程におけるヤング率計測は未実施であることから、本研究課題の当初予定からはやや遅れている。ただし計測可能なシステムの選定およびそれを用いた予備検討は進んでおり、サンプルからの波形を受信可能なことを確認済である。 なお当初は液晶性を有する界面活性剤水溶液を分散媒として用いる計画であったが、本年度に先行して進めたナノインデンタ計測では液状界面活性剤の使用が困難であることから、液晶性を持たない高分子溶液を分散媒とする実験を行った。 界面活性剤水溶液を分散媒とした場合の検討は、CBD法による応力計測を計画どおり実施した。その結果、予期しない負の変位がセミドライ状態に達する前の乾燥初期に生じることを見出しているが、この変位の物理的要因は現時点で明らかではなく、今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始当初は粒子分散液の分散媒として液晶性を有する界面活性剤水溶液のみを予定していたが、本年度に実施したヒドロキシエチルセルロース水溶液を分散媒とする実験を通して、乾燥膜のヤング率の高分子濃度依存性に対し興味深い知見が得られたので、今後は界面活性剤水溶液と高分子水溶液の両方について、それぞれヤング率計測を進める予定である。高分子水溶液は液晶性を示さないことから、液晶形成の有無による力学特性変化についても同時に調査する。 臨界クラック(き裂)厚みの測定では、高分子水溶液を分散媒とした場合について先行して進めており、ある特定の高分子濃度で臨界厚みは極大値を有することを見出している。これは本年度実施したヤング率の計測結果と定性的に一致しており、今後は両者を系統的に比較検討することで、実用的なき裂抑制技術への展開を進める。 粒子分散液がセミドライ状態から乾燥状態へ遷移する過程におけるヤング率の時間発展計測では、ノイズの少ない超音波波形の取得とその信号処理が鍵となる。現在は1種類の超音波探触子による予備測定を行っているが、今後は測定対象に応じ最適な探触子を組み込んだ計測システムの構築を目指す。
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