研究課題/領域番号 |
23H01787
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
荒谷 直樹 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60372562)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 非対称性 / 異方性 / ナノカーボン / キラリティ |
研究実績の概要 |
本研究課題『ナノカーボンの戦略的非対称化と異方性電子機能の発現』は、構造が明確な分子性非対称化ナノカーボンを自在構築し、不斉化や分子内分極構造などの異方性に基づく新たな電子機能発現を目指す。高対称化合物では禁制遷移となり発現しない光学特性の非対称化による許容化やキロプティカル特性発現、分子内分極による長波長化などの異方性電子物性を探索する。新規ナノカーボン材料を精密に設計することで、構造と電子物性相関の精確な調査が可能となり、トップダウン法では得られない新奇構造と新奇電子物性を設計できる。クロスカップリングと縮環反応を巧みに組み合わせ、非対称化、具体的にはねじれ、非交互共役、キラルの3つを対象に、優れた電子物性を示す構造明確な一連の分子性カーボン材料を創成する。 今年度は、近赤外吸収するナノカーボンの構築にフォトクロミック化合物の要素を融合した。構成するベンゼン環の2つをナフタレンに置換することで、フォトクロミズム反応によって 30π共役系を持つアヌレンを出現させ、より長波長までの近赤外光を吸収可能な分子の開発を目指した。架橋部位をナフタレンに置換した分子では、置換基を変更することで、室温下でフォトクロミズム反応の観測を目指したが、先行研究同様に半減期が短く閉環構造の観測には至らなかった。しかし、紫外光を当て続けることで、酸素との可逆的な付加反応が起こることを GRRM や実測値から明らかとした。極低温に冷却しながら紫外光を照射することで、室温下では観測することのできなった分子の吸収スペクトルの測定に初めて成功し、その吸収末端は 1500 nmまで伸びており予想通り30π系のアヌレンを出現させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、近赤外吸収するナノカーボンの構築にフォトクロミック化合物の要素を融合した。構成するベンゼン環の2つをナフタレンに置換することで、フォトクロミズム反応によって 30π共役系を持つアヌレンを出現させ、より長波長までの近赤外光を吸収可能な分子の開発を目指した。架橋部位をナフタレンに置換した分子では、半減期が短く閉環構造の観測には至らなかった。しかし、極低温に冷却しながら紫外光を照射することで、室温下では観測することのできなった分子の吸収スペクトルの測定に初めて成功し、その吸収末端は 1500 nmまで伸びており予想通り30π系のアヌレンを出現させることに成功した。開環体と比較すると約 1100 nmもの長波長シフトが確認され、特異的な光学特性を明らかにした。この結果をもとに、架橋反応が起こるベンゼン環をナフタレンに置換した分子の合成では、半減期を延ばすために閉環構造に出現する[4]ヘリセン骨格に着目し、立体障害を導入することでヘリセンの反転障壁を大きくすることで半減期を増加させることが可能かの検証を行った。反応条件の問題からか、30π系のアヌレンが出現すると予想されたoAP を得ることは出来ず、oSP しか得ることは出来なかった。しかし、得られたoSPは、閉環体の寿命を延ばすために導入したメチル基によって、開環状態にもかかわらず、着色した新しい安定構造を獲得し、一種類の波長の光だけで 3状態を行き来することが可能なフォトクロミック分子となり、今後の応用に期待ができる結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
ジベンゾジヒドロピレンは、従来、入手可能な出発基質からの合成ステップが9段階と長く、任意の置換基の導入も困難なため、長らく研究が発展してこなかった。今回、ジベンゾジヒドロピレンに様々な置換基の導入を可能とする、クロスカップリングに基づく簡便な新規合成法を開拓することで、その物性を詳細に解析した。得られたジベンゾジヒドロピレン誘導体の熱戻り反応の半減期と活性化障壁の間の相関関係を見出し、ジベンゾジヒドロピレン誘導体の半減期が合成前に設計できることになった。 以上の知見に基づきジベンゾジヒドロピレンをさらに拡張した30π系のジナフトジメチルジヒドロピレンの合成に挑戦した。室温下では熱戻り半減期が短いジナフトジメチルジヒドロピレンの閉環状態の吸収スペクトルについて極低温下で紫外光を照射することで観測に成功した。開環体と比較すると吸収末端が長波長シフトし1500 nmまで観測され、30π系のアヌレンを出現させることに成功し、これまでに報告されているフォトクロミック分子の中でも特異的な性能を示すことを明らかにした。さらに、熱戻りを抑えて閉環構造を安定化するために立体障害としてメチル基を導入すると、開環・閉環構造に加えて新しい局所安定構造が生じ、3つの状態(溶液色は緑・紫・無色)を可逆的に変換可能なフォトクロミック分子となることを見出した。 今後は、ジベンゾジヒドロピレンの合成、反応性、電子的特徴を深く理解することで、ユニークな構造と物性を有する一連のフォトクロミックジベンゾジヒドロピレンの合成・評価し、機能性材料の創製に取り組む。
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