研究課題/領域番号 |
23H01794
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
坪井 泰之 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283698)
|
研究分担者 |
中田 芳樹 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (70291523)
上野 貢生 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00431346)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | Mie共鳴 / プラズモン / 光のアンダーソン局在 / 光マニピュレーション / シリコン単結晶 / 多重散乱 / 勾配力 |
研究実績の概要 |
光捕捉用のレーザー光や光化学反応を生起する光の波長は可視域~近赤外域にあるので、シリコンを材料とするなら、100 nm ~ 200 nm程度のナノ構造を付与すればMie共鳴を誘起できる。フェムト秒レーザー超加工によりシリコン結晶表面に100nmスケールの周期的ナノ構造を形成した。特に、多光束ビーム干渉によるLaser Induced Periodic Surface Structure(LIPSS)構造が作製できた。電子線描画法により、様々なナノサイズのシリコン微粒子を様々なサイズのギャップで集積配置した構造体を作製中である。作製されたナノ構造は、電子顕微鏡によりその形状を観察し、FDTD法による電磁場空間分布シミュレーションを行い、Mie共鳴の光波長とその波長における光電場増強度を明らかにしている。 これらを用いた光ピンセットの性能を詳細に検討している。このようなブラックシリコンの光学応答は,ナノニードルの長さと厚みの比(アスペクト比)に依存する。そして、アスペクト比はエッチング処理時間によりある程度制御できる。このような構造を有する表面近傍の電場増強度を電磁場解析により算出したところ、およそ4~5倍程度であった。これはプラズモンの電場増強度(~104)に比べ圧倒的に低い。一方で、ブラックシリコンへの非共鳴光への照射は、熱発生を伴わない大きな利点を有する。我々は、温度に応答して蛍光強度が変化する色素分子(2',7'-Bis(carboxyethyl)-4 or 5-carboxyfluorescein)を用いて、近赤外光(波長808 nm)照射に伴うブラックシリコンの温度上昇度を計測したところ、熱発生が無視できるほど小さいことを明らかにした。その結果、ナノ構造シリコン(ブラックシリコン)は強い捕捉能を持つことを理論・実験両面から実証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画通りの研究を行い、十分当初目的を達成できている。シリコンだけでなく、チタン(Ti)にナノ構造(ナノスパイク構造)を付与することにも成功している。今後のナノ構造の設計指針も得ている。これらナノ構造を利用した光ピンセットによるナノ粒子の捕捉挙動に関しては、系統的なデータを豊富に蓄積することができた。これらを鑑み、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
<シリコンナノ構造上のキラル粒子のエナンチオ選択的捕捉> シリコンナノ構造は、シリコン単結晶をプラズマドライエッチングで加工するブラックシリコンを既に用意できている。現在、光渦ビームは1064 nm で発生可能であるが、新たに空間光位相変調素子を購入し、効率的にMie共鳴を利用できる 波長808 nm~470 nmで光渦ビームを発生できるようにする。捕捉対象とするナノ粒子は、三重大学工学研究科の八尾浩史教授より、キラル金・銀クラスター並びに蛍光性キラル色素会合体を御提供頂き、使用する。光渦の巻き方向と、D体、L体のそれぞれキラルな構造で、捕捉効率(捕捉量)を顕微(二色性)ラマン分光法、顕微蛍光分光法で評価する。D体、L体の捕捉効率の差を利用して、ラセミ体からの選択的捕捉にチャレンジする。 <高分子ドロップレット内の渦流誘起とキラル色素会合体形成> ポリアルキルビニルエーテルやポリジエチルアクリルアミドを水中で光保捕捉すると、マイクロドロップレットを形成できる。興味深いことに、そのドロップレット内では、さらにまた水と高分子が相分離している。この二重に相分離したマイクロドロップレットは、応募者らが初めて発見したユニークな構造である(M. Matsumoto et al, & Y. Tsuboi, Langmuir, Vol. 37 (2021), 2874、後述)。つまり、このマイクロドロップレット内は屈折率の明確なコントラストがあるので、Mie共鳴で増強した光圧が働き、渦流が発生する。この、一方向に巻く渦流をホモキラリティーの起源とする。ドロップレットに抽出した色素分子は濃縮されるので、会合体を形成しやすい。さらに、渦流に加えて光渦の作用もあり、エナンチオ選択でキラルな色素 J 会合体が形成されると考える。
|