研究課題/領域番号 |
23H01797
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉井 丈晴 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70882489)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ヘテロ元素ドーピング / 3次元グラフェン / ホウ素ドーピング / ジッピング反応 |
研究実績の概要 |
3次元グラフェン材料は高比表面積,高耐食性,高導電性を兼ね備え,キャパシタなどのデバイス応用が期待されている.この際,グラフェン中の炭素(C)を窒素(N)やホウ素(B)などで置き換えるヘテロ元素ドーピングは電子物性制御に有効である.しかし,Nドーピングは容易である一方, Bドーピングは導入濃度と形態制御の両立が困難であった.本研究は,グラフェン同士が繋がり成長する”ジッピング”の過程において,ヘテロ元素をin-situで取り込む新手法を提案することを目的とする. 2023年度は3次元グラフェン材料への最適なBドープ方法の検討を行った.鋳型炭素化法により合成されるカーボンメソスポンジ(CMS)は,単層グラフェンから成る3次元メソ多孔体である.ホウ酸(B(OH)3)をCMSに担持し,減圧乾燥することでB(OH)3/CMSを得た.さらに,B(OH)3/CMSを熱処理することでBドープカーボン(B-GMS)を得た.B-GMS中のB量は最大でおよそ2 wt%であった.ジッピング反応によってグラフェン網面中にBがドーピングされると仮定し,最大B導入量を推算したところ2.6 wt%と見積もられ,このことからジッピング反応によりBがドープされるものと示唆された.次に,B-GMS中のBドープ形態を検討した.B-GMSについてB 1s XPS測定を行うと,酸化されたB種に加えて,BC3種に由来すると考えられるピークが見られた.B(OH)3/CMSでは酸化されたB種のみが見られたことから,熱処理過程においてグラフェン骨格中にBがドープされたものと考えられる.これらの結果は軟X線XAFS測定からも支持された.以上のように,CMSをB(OH)3の担体として用いることで,グラフェン網面内にホウ素を高含有する3次元グラフェン構造体の調製に成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,このジッピング反応を利用することで,3次元グラフェン中へ大量のホウ素(B)をドープする新しい手法を提案するものである.2023年度の当初目標として,①B前駆体のエッジサイトへの固定化方法や最適な熱処理方法を確立,②導入可能なBの最大量の追求を挙げた. 項目①について,グラフェンジッピングのメカニズム解明を行った.900 ℃から2600 ℃におけるメソポーラス炭素の構造変化を調べ,グラフェンの積層プロセスを最小限に抑えつつ,グラフェンジッピング反応を促進するための最適条件を明らかにした.昇温脱離分析法(TPD),X線回折,ラマン分光法を組み合わせた解析により,数層のグラフェン壁からなるメソポーラスカーボンは,900 ℃から1600 ℃の温度域において,メソ多孔体構造を維持しつつ,グラフェンのジッピング反応が起こることが見出された.したがって,グラフェンジッピングを起こしつつ,多孔性を維持するためには,1600 ℃程度での熱処理が望ましいと分かった.これについて,原著論文1件を発表し,東北大学からプレスリリースも行った. 項目②については,項目①の結果をベースに,B固定化の基材として単層グラフェンから成るメソ多孔体であるカーボンメソスポンジ(CMS)を選定し,ホウ酸(B(OH)3)を担持した後に熱処理することでBドープカーボン(B-GMS)を得た.狙い通りにBが導入され,B量は最大でおよそ2 wt%であると見出された.さらに,XPSやXAFS測定から,グラフェンジッピングの過程においてグラフェン骨格中にBがドープされたものと示唆される結果が得られた.以上のように,当初の計画を超えてB導入手法の確立が進展し,これまでに学会発表を行ったほか,論文発表を準備中である. 以上より,当該研究は現在まで当初の計画以上に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は3次元グラフェン中へホウ素ドープと新規電子デバイス開発を狙うものである.2023年度は,単層グラフェンメソ多孔体を用いることで,2 wt%に達する高濃度でのBドーピングが可能であることを見出した.2024年度は,Bドーピングの詳細なメカニズム解明を行うとともに,電子デバイス応用に向けた基礎検討を開始する. (1)Bドーピングメカニズムの解明 申請者は超高温・高感度の昇温脱離分析(TPD)装置を開発してきた.本装置を用いて,より詳細なBドーピングメカニズムの解明を進める.具体的には,TPDと軟X線XAFSおよびXPS分析を組み合わせ,熱処理温度ごとの結果を突き合わせていくことによりB導入過程を詳細に追跡する.ここでは,従来から利用しているSPring-8やSAGA-LSに加え,次世代放射光施設であるNanoTerasuも活用予定である. (2)電子デバイス応用に向けた基礎検討 Bドープ3次元グラフェンはp型半導体特性を持ち,有望なキャパシタ材料となり得ることが計算化学で予測されている.しかし,Bドープが困難であったため実験的実証がなされてこなかった.そこで,合成したBドープ3次元グラフェンのキャパシタへの応用可能性を探る.さらに,我々はNドープGMSの開発に既に成功している.これらを組み合わせて比較検討することにより,デバイス開発への基礎検討として,NやBの導入形態・導入量が電子物性に与える影響を詳細に検討する.
|