研究課題
我々は「テラヘルツ波技術を用いた次世代電波産業の創出と豊かな電波社会」の実現を目的にし,高温超伝導体テラヘルツ波発振器の発振出力向上の研究を実施している。テラヘルツ波は,電波と光波の性質を合わせもち,新たな学術・ 産業分野を切り開く次世代電波技術として期待されている。しかし,マイクロ波や可視光に比べ,テラヘルツ帯の技術開発はまだ途上にある。特に小型発振器においては,テラヘルツギャップとして知られる技術的空白地帯が未だに存在する。本研究では,このテラヘルツギャップを埋めるミリワットレベルの小型連続発振器を,高温超伝導体Bi2212単結晶を用いた「Bi2212-THz波発振器の高出力化」によって実現することを目指している。そのために,(1)結晶材料理解の深化,(2)素子作製技術の高度化,(3)素子構造の最適化,の3つを主題として研究に取り組んでいる。本年度の進展をそれぞれの項目について述べる。まず,(1)に関してはBi/Sr比を調整した単結晶育成を行い,それら結晶のキャリア数を制御した試料で,デバイスを作製した。そして,結晶性の評価,デバイス特性の評価を実施した。これらのデータを継続的に蓄積しており,高出力化に向けた材料特性の理解が着実に進みつつある状況である。(2)に関しては,エッチング溶液の開発,結晶と電極基板の接合方法の開発などを継続的に進めている。エッチング溶液に関しては,アンダーカットを抑えた加工が可能な溶液条件などを見つけるに至っている。また,接合技術に関してはまだ開発の途中であるが,接合した結晶を用いて発振素子作製が可能になりつつある。(3)に関しては,パッチアンテナ構造の開発,アレイ素子構造の開発を進めている。これらの開発は(2)のプロセス開発と併せて行っていることもあり,まだ開発途中段階であり,完成までにはもう少し時間が必要である。
2: おおむね順調に進展している
Bi2212テラヘルツ波発振器の高出力化に向け,(1)結晶材料理解の深化,(2)素子作製技術の高度化,(3)素子構造の最適化,の3つの主題に対し,当初研究計画に従い,それぞれの要素技術を着実に進展させることが出来ている。ただし現時点では,実際の発振出力に関しては,まだ大きなブレークスルーは得られていない。
Bi2212テラヘルツ波発振器の高出力化に向けた3つの主題,(1)結晶材料理解の深化,(2)素子作製技術の高度化,(3)素子構造の最適化,に対し次のような方策で研究を進める。 (1)の結晶材料理解の深化に対しては,材料固有のパラメーターの調整条件を明確化する。具体的には,Bi/Sr比(仕込み組成) x,結晶の熱処理条件と超伝導転移温度の対応,結晶性(格子定数等),デバイス特性(臨界電流密度,発振強度)の対応表の作成を目指し,継続的にこれらのデータ取得を行う。また,結晶の条件制御を適切に行える実験装置(熱処理用の炉,デバイス評価システム)を整備する。最終的には,例えば「キャリア数-結晶性-発振強度」の相関などから,高出力化に向けた最適な材料条件見出す。(2)の素子作製技術の高度化に関しては,発振素子の電気的,機械的,熱的特性の向上のために,蒸着金属を介したBi2212単結晶と支持基板の接合技術の条件(金属種,膜厚等)を見出す。また,その技術の素子アレイ化への適用方法(加工方法)の検証を継続的に行う。(3)の素子構造の最適化に関しては,共鳴トンネルダイオードのアレイ素子で用いられているパッチアンテナ構造等を参考にして,これらを我々の素子構造に適用する試みを継続して行う。アンテナサイズ,素子サイズ,パッチアンテナと素子の位置関係等の検証を行う。適宜(2)の技術をここにも用いることで対応する。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Journal of Applied Physics
巻: 135 ページ: 073902
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10.7566/JPSCP.38.011047
https://www.ims.tsukuba.ac.jp/~kashiwagi_lab/02_activity/02_activity.html