研究課題/領域番号 |
23H01851
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片山 光浩 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (70185817)
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研究分担者 |
田畑 博史 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00462705)
久保 理 岐阜大学, 工学部, 教授 (70370301)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 同軸型直衝突イオン散乱分光法 / 表面敏感性 / 低エネルギーアルカリイオン / 二体弾性衝突モデル / 単原子層薄膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、低エネルギーアルカリイオンビームを用いた表面超敏感型同軸型直衝突イオン散乱分光(CAICISS)の装置開発の前段階として、テスト試料としてV2O3を取り上げ、希ガスイオンである 2 keV の He+ イオンをプローブとして表面構造解析を行った。V2O3 は遷移金属酸化物の一種であり、約160Kという低温で金属絶縁体転移を起こす。転移時の構造変化により抵抗値や光透過率などの特性が変化し二次電池や低温領域でのFETへの応用が期待されている。本研究では、ミストCVD法により作製した V2O3 薄膜の成長方位を調べ、その成長方位に対して CAICISS法を用いて V2O3 薄膜の終端構造を明らかにすることを目的とした。まず、XRD測定を行い V2O3 薄膜の面方位を測定したところ、(006)面由来のピークがみられ、これから (001) 面が成長しやすいことがわかった。続いて、CAICISS 法を適用し、V 散乱イオン強度の方位角依存性とシミュレーションの比較から、V2O3(001) の表面終端構造は O 終端であることを明らかにした。 次に、アルカリイオン源(特注,Li+,エネルギー:10~2000 eV, ビーム電流:100 nA)を導入した。イオン源の動作距離は20 cm(ビーム径:1 mm)と短いため、イオン源の出口から 80 cm 離れた試料の中心に 100~2000 eVのLi+イオンビームを到達させるためには、イオンビームの集束・平行化が可能なイオン光学系が必要となる。そこで、空間電荷効果を含めたイオンの軌道計算に基いて、レンズを設計・製作した。これにより、ビーム径 約 1 mm、イオン連続電流 約 10 nA の平行性を保ったイオンビームが試料に入射されることを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アルカリイオン源とレンズ系の動作確認はしたものの、当初の本年度研究計画であった既知の表面構造に対して Li+ イオンをプローブとした CAICISS 測定を行い入射イオンエネルギーを 1 keV から徐々に低くしたとき遮蔽クーロンポテンシャルによる二体弾性衝突モデルが破綻するエネルギー領域を求めること、ならびに表面超敏感型CAICISSがもつ表面最外単原子層の原子配置の精密解析に適した特徴を実証する実験が未だおこなわれていないため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で解明した既知の表面構造である V2O3(001) O 終端表面に対して、Li+ イオンをプローブとした同軸型直衝突イオン散乱分光(CAICISS)測定を行い入射イオンエネルギーを 1 keV から徐々に低くしたとき遮蔽クーロンポテンシャルによる二体弾性衝突モデルが破綻するエネルギー領域を求める。具体的には、散乱イオンの飛行時間スペクトル、V 散乱イオン強度の方位角依存性と遮蔽クーロンポテンシャルを用いた構造モデルシミュレーションの比較から、遮蔽クーンポテンシャルによる二体弾性衝突モデルを維持しつつ表面敏感性を保つ下限の入射イオンエネルギー領域を求める。併せて、本実験により、表面超敏感型CAICISSがもつ表面最外単原子層の原子配置( V2O3(001) 表面が O 終端構造であること)の精密解析に適した特徴を実証する。
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