研究課題
本研究の目的は、無機キラル化合物の結晶構造のキラリティを制御出来る不斉育成手法を開発し、不斉単結晶による構造キラリティ誘起の物性観測を行うことである。結晶構造のキラリティ制御が困難であることが、無機キラル化合物の物性研究における障害となっている。令和5年度の研究成果は以下の通りである。(a) 無機キラル化合物の不斉結晶育成手法の開発: レーザー浮遊帯域法により、TSi2及びTGe2 (T: 遷移金属) の大型単結晶育成を行った。結晶構造キラリティを選択的に制御する為、組成傾斜試料棒を用いて結晶育成を行った。得られた単結晶試料は、単結晶X線回折測定による絶対構造解析により結晶学的キラリティを評価した。単結晶試料は育成初期の組成が形成する結晶キラリティを引き継いでおり、これらの物質において選択的不斉単結晶育成手法の確立に成功した。(b)遷移金属ダイカルコゲナイドにおける無機キラル磁性体のキラルらせん磁気構造及びキラルソリトン格子の観測: 化学輸送法によりTTa3S6 (T: CrまたはMn) の単結晶試料を育成した。強磁性体として考えられていたMnTa3S6は小角中性子散乱によりキラルらせん磁気構造を形成していることを明らかとした。また、CrTa3S6のバルク単結晶及び微細試料を用いた磁化測定及び磁気抵抗測定によりソリトン格子形成に伴う表面バリア効果を観測した。(c) キラル結晶である水晶でのフォノンの角運動量: キラル結晶である水晶に温度勾配を印加することにより、水晶中にフォノンの角運動量が誘起されることを理論計算から予言した。
2: おおむね順調に進展している
代表者(高阪)は傾斜試料棒を用いたレーザー浮遊帯域炉による浮遊帯域法により無機キラル化合物TSi2及びTGe2の選択的不斉単結晶育成に成功した。また、新しいキラル物性の観測を目指した物性測定も当初の計画通りに進行している。また、分担者(松浦)によりキラル結晶で見られるフォノンの角運動量についても定量的に見積もれるようになってきた。
今後も当初の計画に基づいて研究を推進する予定である。無機キラル化合物TSi2及びTGe2の選択的不斉単結晶育成手法を確立した為、2024年度はこれらの物質の順手系及び逆手系キラリティの単結晶を活用したキラル物性の観測を目指す。これまでの実験からフォノンの角運動量が電子スピンに転写されることが提案されているが、その微視的起源は明かになっていない。そこで2024年度はの微視的解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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