研究課題/領域番号 |
23H01954
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原渕 祐 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (60727204)
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研究分担者 |
林 裕樹 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (90802223)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 光電子移動 / 水素原子移動 / 反応サイクル / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
本研究では、光電子移動触媒および水素原子移動(HAT)触媒が複雑に関与する触媒サイクルに対して、代表者が中心となり量子化学計算に基づき原子レベルでの反応機構を明らかにするとともに、その計算結果に基づき適切な触媒、基質、および塩基等の添加物を提案し、分担者が中心となり実証実験を通じて新たな触媒的ラジカル反応を見出すことを目指し研究を進めている。これを実現するために、一電子移動(SET)過程とHAT過程に対する理論モデルおよび計算手法を導入し、触媒サイクルの理解とそれに基づく触媒設計、そして実験実証を進める。 2023年度は、プロトン移動および光電子移動を含むラジカル反応に対する理論解析と理論予測の取り組みにおいて進捗があった。分担者によって実験研究が進められている、有機分子の光電子移動触媒を用いたオレフィン官能基化反応に対して、プロトン移動過程と光電子移動過程に対する詳細な解析を進め、電子移動触媒の理論スクリーニングを進めた。 光電子移動触媒の計算においては、異なる状態間のポテンシャル交差構造を通じて電子移動が効率的に進行すると仮定し、ポテンシャル交差構造をあらわに計算することにより、その効率を推定した。実際の計算では、酸化還元電位をモデル化するエネルギーシフト法を用いてDFTレベルでポテンシャル交差探索を行った。さらにTDDFTにより光電子移動触媒の吸収波長を評価した。有機分子の光電子移動触媒に対して、数十の置換基が異なる分子構造を生成し、光励起過程と光電子移動過程の計算結果から反応に適した分子を予測した。その中から、実験的にアクセス可能な分子構造に対して合成実験を進めた。プロトン移動過程については、基底状態における反応経路探索計算を適用し、起こりうる副反応を考慮した上で、数10の塩基や基質の組み合わせについて計算を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度までに、計算結果の解析手法を援用することで、代表者と研究分担者の綿密な連携ができている。実際の反応においても、すでに、光電子移動触媒、基質、塩基を用いた反応系に対して、光励起後の原子レベルでの反応機構の理解と、多数の分子に対する計算に基づく理論予測が進んでいる。さらに、計算によって予測された組み合わせに対する実験実証についても進捗があった。そのため、反応経路計算と触媒の酸化還元電位に基づく触媒サイクル全貌の理解と、それに立脚した理論提案及び実験実証を目指す本研究の進捗は順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に引き続き、有機分子の光電子移動触媒を用いたオレフィン官能基化反応に対して、プロトン移動過程と光電子移動過程に対する詳細な解析を進め、光電子移動触媒の反応に対する理論スクリーニングを進める。 計算においては、反応経路探索とポテンシャル交差探索を基盤とし、触媒サイクル全貌の理解と、得られた反応機構に基づく触媒や添加物の理論提案を行う。機構解析においては、対象とする反応において、プロトン共役電子移動(PCET)過程が実験的に進行しているかどうかにも焦点を当て、量子化学の観点から解析を進める。さらに、得られた反応機構において、対象反応に適した酸化還元電位を持つ触媒や塩基などの添加物に対して、分子構造生成と量子化学計算によって適切な組み合わせを見出す。また、多数の系に対して、光励起、電子移動、反応過程を計算した結果に対する解析手法の拡張にも取り組む。 実証実験では、オレフィン官能基化反応について、計算で提案された反応過程の実証を目指して、必要な基質分子や触媒分子を合成し、計算では詳細な考慮が困難な溶媒効果や濃度も含めて、反応条件をスクリーニングする。まずは化学量論反応での実証を検討し、その後触媒的反応の実現を目指す。特に触媒分子の設計では、実験で得られる結果と計算結果をリンクさせ、触媒分子に含まれる置換基が触媒サイクル中の光励起、電子移動、結合形成などの素過程にどのように影響するかを精査する。得られる計算結果を触媒分子の合成指針とし、効率的触媒サイクルの実現を図る。
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