研究課題/領域番号 |
23H01984
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
成島 哲也 東京工業大学, 理学院, 研究員 (50447314)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 円二色性 / キラリティ / 円偏光 / イメージング分析 |
研究実績の概要 |
溶液を対象にした従来の円二色性(CD)計測法には,原理的な問題が円偏光照射部にあったため,固体試料等のキラリティを分析,可視化する技術は,長年夢のものとされてきた。 我々は信頼性の高い円偏光照射法を考案し,それに基づき開発したCD顕微鏡を最近実現させ,高い空間分解能でキラル物質のイメージング分析を進めている。本研究では,その独自手法を基に,下記の研究項目を遂行する: ① CD計測の高速化・高感度化を実現し,キラル物質の「動き」を捉える ② キラリティと磁性体・スピンの相関をイメージング分析により明らかにする ③ 分子レベルの微細構造とメゾスケールキラリティの関係を実験的に解明する 研究期間初年度の令和5年度は,主に①と②に関する研究を進めた。①に関しては,キラル物質の「動き」を捉えるため,我々独自の円偏光照射法に,CMOSカメラによる計測を組み合わせ,CDイメージング計測の高速化を実現した。また,②については,円偏光を励起源とすることにより,キラル物質と磁性体・スピンの両方を計測できることを実証した。 研究計画書の段階では,③の分子・メゾスケールの機構解明に関する研究を先行する予定であったが,②の磁性体・スピンに関する試料計測が早期に可能となったため,前倒しして実施した。また,①の研究については,計画書段階では「高感度を維持して高速化する」予定であったが,一部,簡略化して「高速化」のみに特化したところ,(ベストではないが)実用的な感度を維持しつつ,5 fps程度の高速イメージング計測が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① キラル物質の「動き」を捉えるため,我々独自の円偏光照射法に,CMOSカメラによる計測を組み合わせ,CDイメージング計測の高速化を実現した。計画書段階では,試料を高速に走査することにより「高感度を維持して高速化する」予定であったが,様々な可能性を検討し,まずは,一部簡略化して「高速化」のみに特化して研究を進めた。従来の試料走査法では,試料上の一点のみの局所計測であったが,CMOSカメラによるイメージング計測では,観察領域全体を均一に照明する必要があった。光学系に追加の調整機構を導入することにより,この問題を解決し,(ベストではないが)実用的な感度を維持しつつ,5 fps程度の高速イメージング計測が可能となった。現在の均一に照明できる空間領域が70 um程度に制限されていることから,これを拡張することが次の課題として考えられる。
② 円偏光を励起源とすることにより,キラリティと磁性体・スピンの両方を計測できることを実証した。キラル物質の分析は,従来より,左・右円偏光を照射した際の光吸収差を評価することにより行われている。一方,磁性体やスピンの研究では,主に,直線偏光を照射した際に生じる偏光の回転を計測し,その特性解明が進められてきた。磁性体やスピンも円偏光に対して応答するが,直線偏光に対する応答のほうが比較的に容易に計測可能なためか,円偏光を用いた計測の例はあまり多くないようである。今回,その円偏光照射した試料からの光学応答を高感度に計測することにより,キラル物質だけでなく,磁性体やスピン系の試料からも十分な応答が得られた。特に,磁性体の場合,従来の偏光回転計測と異なり,磁化の絶対的な方向依存性を評価・確認できる事がわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,①,②の成果を発展しつつ,下記の研究項目に着手する。 ③「分子レベルの微細構造とメゾスケールキラリティの関係を実験的に解明する」 分子自体がアキラルでも,分子集合体等を形成しナノ・マイクロスケールでキラリティを獲得した場合,CDが発現する(例 キラルなMOF微粒子,Chem. Eur. J., (2019).)。本研究項目では,このCDが発現する領域を高い空間分解能で観察することにより,CDの起源となる「スケール階層や構造因子」を明らかにし,ナノ・マイクロスケールでのCD発現のメカニズムの解明を目指す。そのため,プローブ顕微鏡とCD顕微鏡の同時観察を実現する。また,試料上の特定の位置におけるCDスペクトル計測を可能とすることで,CD共鳴波長と構造因子の対応も試みる。
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