現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機分子と磁性原子による二次元量子スピン系の構築を目指している。 磁性原子間の相互作用を強めたいなら長さの短い1,4-Di(4-pyridyl)benzene(DPB)が良いが、320-330 Kで真空昇華し制御が困難と分かった。そこで、前駆体分子quaterphenyl-4,4-dicarbonitrile (Ph4DN)結晶を合成した。4,4-dibromobiphenylと4-cyanophenylboronic acidを触媒としてpalladium(0)を用いて反応させた(収率: 228 mg, 0.641 mmol, 40%)。その後、再結晶化し(収率: 33.1 mg, 0.0929 mmol, 22%)、1H-NMR (500 MHz, d-chloroform)測定からPh4DN結晶の精製を確認した。精製した結晶を坩堝に入れ、超高真空内にて温度変化による昇華レート測定を行った(0.5 nm/min at 坩堝温度410 K, 2×10-7 Pa)。アレニウスプロットより、昇華エネルギーΔE = 1.68 eVを得た。磁性金属としてCu(111)上での磁気構造が明白なCoを使用した。Cu(111)上にCoを0.2原子層分(MLs)蒸着しCoナノクラスター成長を確認した。二次元量子スピン系の構築にはCoとPh4DNの共蒸着が必要である。双方の蒸着器の芯出しを慎重に行った。中心軸が僅か数 mmずれるだけで蒸着量の制御が困難となる。芯出し後、Cu(111)表面に室温でCoとPh4DNを共蒸着し、その後、ポストアニールした。その結果、Coナノクラスターのみが形成され分子は脱離してしまった。分子吸着時は基板温度を低温にし、Co原子蒸着後に基板温度を室温まで上昇する方式に変更する。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 二次元量子スピン系の構築を実現するには、導電性基板では、基板と分子間の電子結合が切れないため本来不適切である。基板との電子結合を切るためIr(111)上のグラフェン作製を実施する。プレ実験として、清浄化したIr(111)を1200K以上に加熱しながらC2H4分子を照射し化学気相成長にてグラフェンが作製できる事を電子線回折スポットより確認した。今後、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて精密な構造解析を進める。 (2) 理想的には、NVダイアモンドと同じような量子スピン構造を二次元系で実現したい。そのためには、磁性原子周りに有機分子が配位した際の量子スピン構造の予測と理解が不可欠である。そこで、Gaussian16計算でCo原子周りにPh4DNがC2, C3, C4対称で配位した際、スピン多重度、価数を変化させ、エネルギー的に最安定な状態を既に探ってきている。今後、さらに第一原理計算を用いて詳細を詰めていく。 (3) 量子スピン検出を行うには、光照射による初期化と、マイクロ波パルスによる量子スピン状態の制御が不可欠である。光とマイクロ波の導入を、我々が使用している走査トンネル顕微鏡(STM)装置に組み込む。そのため、プレ実験として、可視光とマイクロ波によるダイヤモンド内のNVセンター量子スピン状態の光学磁気共鳴計測を実施し観測に成功した。今後、この技術を超高真空STM装置へ組み込む。
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