研究課題
本研究の目的は、高純度窒化ホウ素(BN)単結晶への欠陥形成による新たな機能発現として、六方晶窒化ホウ素(hBN) 及び立方晶窒化ホウ素(cBN)単結晶によるスピン欠陥等の開拓・制御手法を確立することである。2023年度はhBN結晶の不純物制御の高度化のため、これまで用いてきたバリウム系結晶育成溶媒の改良を行った。アジ化バリウム(Ba(N3)2)、窒化バリウム(Ba2N)をこれまでの溶媒系(Ba3N2)に添加し、得られた結晶のバンド端発光特性との相間を明らかにした。前者のアジ化バリウム添加では試薬の水和状態による影響が顕在した。Ba2N添加での結晶成長による評価は次年度の課題である。hBNカラーセンターの量子応用として結晶への炭素ドーピングとホウ素欠損(VB)がカラーセンターの候補となる。この際、欠陥のスピン感受性(磁気感度)に影響を及ぼすスピンバスとしてBN結晶自体のホウ素と窒素元素由来の核スピンの制御が課題として上げられてきた 。窒素の安定同位体には14N と15N があり、14N の天然組成比は99.6%である。14N の核スピンはスピン1 であるのに対して15N の核スピンはスピン1/2 であり,スピン準位の影響を低減するために15N を濃縮したhBN結晶を合成し、ホウ素欠損(VB)を有するhBN結晶の評価を行った。N15N 濃縮したNH4ClとNaBH4試薬の複分解反応による15N濃縮hBNを合成した。2023年度の評価では、hB15N結晶において光検出磁気共鳴(ODMR:Optically detected magnetic resonance)信号の顕著な改善(磁気感度向)が認められた。上記研究で得られた結晶は100μm程度であるが、当該粒子を原料として金属溶媒による結晶成長を行うことで1mm程度の同位体濃縮hBN単結晶(h10B15N) を合成した。
2: おおむね順調に進展している
六方晶窒化ホウ素のスピン関連欠陥はポストNVダイヤモンド等の量子センシングのプラットフォームとして国内外で研究開発が進んでいる。窒化ホウ素の構成元素であるホウ素と窒素の同位体組成の制御は核スピン状態の制御で重要であり、良質単結晶においてホウ素と窒素の同位対制御により量子センサーとしての磁気感度の向上が期待できる。2023年度の取り組みにおいて窒素同位体を15N に置き換えることでhBN中のホウ素空孔由来の磁気センシング感度の向上を世界で初めて明らかにした。更にホウ素同位体(10b)の高純度化にも成功した。カラーセンターの蛍光の分析では、ノンドープ・ドープcBNに電子線照射を行い、そこで生成されたカラーセンターのUV蛍光スペクトラムを計測した。また、BeドープのcBNにおいて、特徴的な蛍光スペクトラムを観測した。光検出磁気共鳴(ODMR)では、密度汎関数理論による数値計算を行い、cBNの1+の電荷を持つボロン空孔のゼロ磁場分裂が3974, 1324 MHzという予測結果を得た。この数値計算の予測に従い、ODMRによる磁気共鳴の検出を試みたが、マイクロ波帯を幅広く探索したが、磁気共鳴の検出は出来ていない。
hBN中の窒素同位体(15N)の制御とホウ素同位体(10B)の高純度化に成功した上で、1mmを越える良質単結晶の成長を目指す。すなわち、相当量の同位体濃縮結晶試料(グラムオーダー)を進め、育成溶媒を活用した単結晶成長を行う。得られた結晶の磁気感度特性の評価を行うと共に、hBN中の未知のカラーセンターの開拓も目指す。また、圧力を適切に制御して立方晶窒化ホウ素単結晶を合成し、新規カラーセンターの開拓を目指す。カラーセンターの蛍光の分析ではBeドープのcBNにおいて観測した特徴的な蛍光スペクトラムの理論家と協力して理解を進める。光検出磁気共鳴(ODMR)では磁気共鳴の検出は出来ていない理由として考えられるのは、ODMRコントラストが小さい(1%未満)か、数値計算に誤りがある、である。まずは、ODMRコントラストが小さいために、ノイズに埋もれていると仮定して、よりノイズレベルが小さい測定系を準備して、磁気共鳴の検出を試みる。具体的には、ロックインアンプによるODMRを測定系を構築して、その測定系での計測を行う。
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