研究課題
申請者は水素分子錯体において、吸着エンタルピーがH2に比べてD2のほうが有意に高いことを明らかにした。その理由を明らかにするために量子化学計算およびオペランドXAFS測定を行った。ケンブリッジ結晶構造データベース記載の構造データを中心とした44化合物について量子化学計算を行った。その結果、吸着平衡定数の比(KD2/KH2)と吸着エンタルピー差(ΔΔH)の間に明確な相関があることを明らかにした。これは、本水素同位体分離がエンタルピー駆動であることを示しており、ゼロ点振動エネルギーの違いに起因するという機構の妥当性をサポートする結果であった。また、KD2/KH2とM-H距離の間にわずかな相関が見られた。これについてはさらなる解析が必要である。一方、Mn錯体におけるオペランドXAFS測定の結果、プリエッジ領域に明確な違いを観測した。これは水素分子が金属イオンに配位することで分子の対称性が変化したことを示している。また、わずかではあるが吸収端のシフトを観測した。これは同測定を用いて金属イオンの実酸化数を鋭敏にとらえることが出来たことを示している。また、オペランドFT-IR測定の環境を整えるとともに、中性子非弾性散乱(INS)を専門とするオークリッジ国立研究所(米国)のProf. Anibal J Ramirez Cuestaとの共同研究を進める旨で合意し、2024年度に同研究所においてオペランドINSを行うための準備を整えた。
2: おおむね順調に進展している
ケンブリッジ結晶構造データベース記載の構造データを中心とした44化合物について量子化学計算を行った結果、量子化学計算を用いて実測の分離能をある程度再現できることが明らかとなった。これは、同位体機構を明らかにするうえで非常に重要な知見であった。また、Mn錯体におけるオペランドXAFS測定の結果、プリエッジ領域に明確な違いを観測した。これは水素分子が金属イオンに配位することで分子の対称性が変化したことを示している。また、わずかではあるが吸収端のシフトを観測した。これは同測定を用いて金属イオンの実酸化数を鋭敏にとらえることが出来たことを示している。本課題の予算においてFT-IR用クライオスタットを購入し、オペランドFT-IR測定を行える環境を整えることが出来た。
今後は、量子化学計算の対象化合物を拡大し、100種類以上の錯体について計算を行い、水素分離能のデータベース作成を進める。また、これらのデータについて機械学習の手法を用いることで分離能と相関する物質パラメータを見つけ出す。また、実験についてはオペランドFT-IR、オペランドXAFS(再測定)、オペランド中性子非弾性散乱の測定を進めることで、本物質系における水素同位体分離メカニズムを解明する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 3件、 査読あり 15件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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