研究課題
生命機能の根幹を支えるミトコンドリアは、細胞内で融合と分裂を繰り返すダイナミックな二重膜構造のオルガネラである。この「ミトコンドリア・ダイナミクス」の破綻は、ヒトにおいては神経変性疾患や代謝異常症などの病気とも深く関係する。この現象の生理的な意義は、オルガネラ同士によるコミュニケーションを頻繁に取ることで、仮に一つのミトコンドリア内に異常が生じた際にも、その内容物を交換して影響を最小限に抑えると考えられている。一方で、この現象が「どのように調節されるのか?」また「どのように生理機能に必須なのか?」、その理由を説明する分子実態に基づくメカニズムの理解は未だにその答えが出ていない。本研究の目的は、細胞の恒常性を維持する上でストレス応答時(微生物感染など)におけるミトコンドリア・ダイナミクスの役割を分子実態に基づいて理解することにある。そこで本研究では、この現象を調節する主要タンパク質の構造機能解析に加えて、これまで未踏であった他の生体分子(リン脂質、代謝産物、及び核酸)の役割解明も含めて、多角的な視点よりミトコンドリアを介したストレス応答の仕組みを集学的に探究する。本研究により、ミトコンドリア・ダイナミクスの新たな付加価値が加わると、本現象に関わる因子群を標的とした創薬探索系の構築や、過剰な免疫反応の制御に向けた応用が期待される。特に該当年度は、ミトコンドリアの外膜に局在し、ストレス応答との関連性が指摘されてきたMul1に着目した研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
ミトコンドリアの外膜に局在するMul1は、RING型E3ユビキチンリガーゼに属する膜貫通型タンパク質の一つであり、特定の基質(今のところ不明)を特異的に認識・ユビキチン付加し、その後分解などへ導くことで、様々なシグナル伝達経路に関与すると考えらている。この分子の生理的な機能を調べるために、これまでMul1欠損マウス(Mul1 KO)の作製を進めてきた。メスの変異体マウスは、野生型オスとの交配は成立するが、Mul1ヘテロ欠損体がほとんど生まれてこない。本研究では、その原因を探るための解析を中心に行った。その結果、変異体マウス(メス)ではin vivo(交配)または in vitro(IVF)のいずれにおいても、胚盤胞まで発生しない異常胚が多くみられ、着床前の初期胚発生過程において既に異常があることが明らかとなった。その原因を探るため、次に卵子や受精後の初期胚を観察した。分化や増殖、アポトーシスなどの面では、野生型とMul1 KO間での大きな差は見れなかった一方で、活性酸素種(ROS)が変異体の卵子では顕著に上昇していることが分かった(野生型との比較)。今後、Mul1 KOで上昇したROSを解消することで初期胚の発生過程に何らかの回復が見られるのかを継続して解析する。また、なぜMul1欠損において細胞内ROSが上昇するのか、その原因も探索する。
【1】ストレス刺激時にミトコンドリア内で形成されるタンパク質複合体の解析これまでにミトコンドリアの内膜タンパク質プロヒビチンを中心に、複数のタンパク質がストレスに応答して複合体構造を変化させていることが我々の実験により明らかになっている。そこで本研究では、様々なストレス刺激(薬剤、ウイルス、寄生虫)を施した細胞内で新たに形成されるプロヒビチンを中心としたミトコンドリアタンパク質群を分子レベルで解析し、各刺激との構造変化との繋がりを明らかにしたい。【2】ストレス刺激に伴い誘導される機能性分子種の網羅的探索プロヒビチン複合体は、タンパク質の足場として機能する以外にもミトコンドリアリン脂質の生合成やアミノ酸輸送などの代謝系とも深く関係する。一方で、ミトコンドリア内部の脂質環境や代謝物がミトコンドリア外膜上で進行するシグナル伝達へどう影響するのかは不明であった 。本研究では、既に樹立済みのミトコンドリア関連遺伝子の各欠損細胞株を用いて薬物刺激や微生物の感染実験を行い、ストレス応答に伴い誘導される機能性分子種の網羅的探索を進める。
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FEBS Lett.
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http://www.sci.fukuoka-u.ac.jp/lab/chem/koshiba/
https://resweb2.jhk.adm.fukuoka-u.ac.jp/FukuokaUnivHtml/info/7556/R108J.html