研究課題/領域番号 |
23H02129
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
藥師 寿治 山口大学, 大学研究推進機構, 教授 (30324388)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 酢酸 / 同化 / 代謝 / 発酵 / 酢酸菌 / 酵素 |
研究実績の概要 |
酢酸菌Acetobacter pasteurianusは酢酸の同化能を持っているが,その代謝系は未知のままとなっている。はじめに酢酸は,アセチルCoAに変換されることが示唆されるが,そのゲノムには,グリオキシル酸サイクル,エチルマロニルCoA経路,メチルアスパラギン酸サイクル,のいずれのアセチルCoA同化代謝経路に関わる遺伝子を見出すことが出来ない。本研究は,「酢酸菌が未知の酢酸同化代謝経路を持っている」と仮説を立て,実証することを目的としている。 酢酸菌には,食酢醸造に用いられるAcetobacter属とKomagataeibacter属が知られる。両者とも高い酢酸生産能と高い酢酸耐性能に加え酢酸同化能を持つ。本研究で用いるAcetobacter pasteurianusは,スクシニルCoA:酢酸CoA転移酵素(SCATase)をコードするaarC遺伝子を持ち,これが酢酸同化代謝に必須であることがわかった。A. pasteurianusはスクシニルCoA合成酵素を持たないので,TCAサイクルにおけるスクシニルCoAからコハク酸への代謝はAarCが担うため,TCAサイクルの完全性が求められるのか,酢酸からアセチルCoAへの代謝が求められるのか明らかではなかった。よって,酢酸菌ゲノムを調べてみたところ,Komagataeibacter xylinusがaarC遺伝子とスクシニルCoA合成酵素の遺伝子を持つことがわかったので,K. xylinusのaarC遺伝子を破壊した。しかし,K. xylinusの酢酸同化代謝においてもaarC遺伝子が必須であった。よって,酢酸からアセチルCoAへの代謝が酢酸同化代謝に必須であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酢酸菌Acetobacter属とKomagataeibacter属は,食酢醸造に用いられる重要な菌である。はじめに,Acetobacter pasteurianusを用い,スクシニルCoA:酢酸CoA転移酵素(SCATase)をコードするaarC遺伝子を破壊したところ,酢酸同化代謝に必須であることがわかった。しかし,A. pasteurianusはスクシニルCoA合成酵素を持たないので,TCAサイクルにおけるスクシニルCoAからコハク酸への代謝はAarCが担う。よって,TCAサイクルの完全性が酢酸同化代謝に求められるのか,酢酸からアセチルCoAへの代謝が酢酸同化代謝に求められるのか明らかではなかった。一方,C3化合物としてグリセロールと乳酸を炭素源・エネルギー源として培養したところ,良好に生育した。興味深いことに,aarC遺伝子破壊株は乳酸培地で生育した際に酢酸を培地に蓄積し,グリセロールでは酢酸を蓄積しなかった。 酢酸菌Komagataeibacter xylinusは,aarC遺伝子とスクシニルCoA合成酵素の遺伝子の両方を持つことがわかったので,K. xylinusのaarC遺伝子を破壊した。しかし,K. xylinusの酢酸同化代謝においてもaarC遺伝子が必須であった。よって,酢酸からアセチルCoAへの代謝が酢酸同化代謝に必須であることがわかった。 以上より,酢酸菌における酢酸同化代謝のはじめのステップが酢酸からアセチルCoAへの代謝であることがわかった。よって,進捗状況の評価としては,「おおむね順調に進展している」とした。しかしながら,A. pasteurianusとK. xylinusにおいては,酢酸からアセチルCoAへの代謝系の遺伝子をaarC以外にも持っているため,これらの役割を調べる必要があると感じている。
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今後の研究の推進方策 |
酢酸菌における酢酸同化代謝のはじめのステップが,酢酸からアセチルCoAへの代謝で,AarCが担うことが強く示唆された。しかしながら,A. pasteurianus,K. xylinusともに,酢酸からアセチルCoAへの代謝系については,aarC以外の遺伝子も持っている。はじめに,これらの役割を調べるために遺伝子破壊株を作製する。次に興味深いと感じていることは代謝産物で,A. pasteurianusのaarC遺伝子破壊株を乳酸で培養した際に酢酸の蓄積が見られた。このことが,K. xylinusにおいても該当するのかどうかを調査する。また,K. xylinusはグリセロールでもグルコースでも良好に生育するため,この際の代謝産物も調べる。 これまで,トランスクリプトームやメタボロームを試みていないため,早急にこれらを実施する。K. xylinusのaarC遺伝子破壊株は酢酸で生育すると考えていたので,K. xylinusの親株とaarC遺伝子破壊株とでトランスクリプトームやメタボロームを比較することを計画していた。しかし,酢酸では生育しないことがわかったので,親株を用いて酢酸と乳酸で生育した際のトランスクリプトームやメタボロームがどの様に変化するのかを調査する。両解析を通して,酢酸代謝に特徴的な中間代謝産物や遺伝子(産物)を絞り込む。候補遺伝子を絞り込み,逆遺伝学解析に着手する。
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