研究課題
本研究はユリに壊そ症状を引き起こし問題となっている機械的伝搬性のポテックスウイルス、オオバコモザイクウイルス(plantago asiatica mosaic virus: PlAMV)の複製酵素の膜局在に関与するメチルトランスフェラーゼドメイン(MET)が複製複合体の形成に関わる複製機構の解明を目指す。2023年度は、MET-GFPの免疫沈降と質量分析により見出した宿主タンパク質dynaminがMETと相互作用することを確認し、ノックダウンと阻害剤を与えたプロトプラストへの接種実験により、本因子がPlAMVの複製に寄与することを解明し論文発表した。さらに遺伝子コード型抗体プローブによる全長複製酵素の動態解析の系の確立を進めた。PlAMVの複製酵素にHAタグを融合したウイルスを作出しこれが複製することを確認したのち、HAに対する蛍光タンパク質標識型抗体FB-mCherryをアグロバクテリウムで発現させて複製酵素の生細胞での局在観察を試みた。しかし、35Sプロモーター制御下で発現させたFB-mCherryは、HAタグ付加複製酵素を持つウイルスの複製時にも核細胞質局在を示しウイルス感染特異的な局在を観察できなかった。そこで、FB-mCherryをウイルス複製時に誘導的に発現させる二成分発現系を構築したところ、FB-mCherryはHA融合付加複製酵素を持つウイルス複製時に小胞体に近接した顆粒状構造を形成した。この顆粒は細胞間連絡と近接しており、これまでのポテックスウイルスの複製酵素の一過的発現での局在と一致していた。さらに、近接依存性標識法によるMET相互作用因子の同定も進め、タンパク質の捕捉と質量分析による同定系を確立した。現在、小胞体マーカータンパク質をコントロールとして、METに特異的な相互作用因子を同定すべく条件検討を行ない、複数のMET相互作用候補因子を見出している。
2: おおむね順調に進展している
免疫沈降と質量分析によりMETの相互作用因子であるdynaminを同定し、その一連の機能解析によりPlAMVの複製への関与を明確にできた。さらに、遺伝子コード型抗体プローブによる全長複製酵素の動態解析の系についても確立のめどが立ち学会発表を行うことができたとともに、近接依存性標識法による複製複合体の構成因子の同定についても系の確立に向けて順調に進捗が得られている。これらのことから、おおむね順調に進捗していると判断できる。
2023年度までの進捗状況を踏まえ、2024年度には、引き続き遺伝子コード型抗体プローブによる全長複製酵素の動態解析の系の確立を目指す。遺伝子コード型抗体プローブFB-mCherryの発現がウイルス複製に影響を及ぼすかどうかを確認するとともに、RNAウイルスの複製中間体であるdsRNAの局在を観察できるB2:GFP植物を利用し、FB-mCherryにより標識される顆粒とウイルス感染時に形成されるdsRNA顆粒の共局在が生じるかを解析する。これらの結果を合わせ、生細胞で複製時のウイルス複製酵素の局在について知見を得て、論文発表を目指す。また、METドメインの多量体化についての研究も本格的に進め、Blue-Native PAGEの系を確立し、高分子量のバンドが検出されるかを調べる。多量体化を示す高分子量のバンドが検出されたら、すでに複製に影響することがわかっているMETの変異体を用いて、多量体化形成と複製能との関連についての知見を得る。さらに、近接依存性標識法による複製複合体の構成因子の同定については、小胞体の内腔と膜に局在するコントロールにより標識される因子を網羅的に同定し、これらと有意に異なるMETの近接因子を見出す。これらについてベンサミアナタバコでノックダウンを行い、PlAMVの複製への関与を検討する。見出した複製関与因子に、遺伝子コード型抗体プローブによる複製酵素局在解析系を適用し、複製複合体の形成に宿主タンパク質がどのように関与するかについての知見を得る。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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