研究課題/領域番号 |
23H02245
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
井田 秀行 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (70324217)
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研究分担者 |
土本 俊和 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (60247327)
廣田 充 筑波大学, 生命環境系, 教授 (90391151)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 茅場 / 植生管理 / 里山景観 / 茅葺き / 炭素循環 / 半自然草地 / 伝統的生態学的知識 / 地域文化 |
研究実績の概要 |
本年度の茅場に関する研究結果の概要は以下の通りである。 ① 生物多様性の把握:富山県五箇山管沼の草刈り管理下の茅場と長野県小谷村の火入れ管理下の牧の入茅場で種数面積関係を比較した。両茅場とも草原生植物の生育場所となっていたが前者の植物種数は約50種で後者の2倍であった。牧の入茅場では昆虫651種を記録し、特にコウチュウ目が多く、優占種はイナゴモドキとミカドフキバッタであった。 ② 炭素貯留機能の把握:つくば市KEK内のススキ茅場で植生とバイオマス量を把握したところ、ススキのバイオマスは小さく、これは土壌条件の不均一性が影響していると考えられた。 ③ 茅の品質や生産量への管理の影響:つくば市KEK内のススキの物理的強度は茎基部のCN比に依存していた。茅葺き職人のアンケートから、茅の採取量が減少していること、質として最大長と硬さが重要視されることが明らかとなった。滋賀県琵琶湖内湖「西の湖」のヨシ地では、ヒアリングと現地調査から、火入れ管理の継続が良質なヨシの産出に寄与していることが示唆された。 ④ 古茅の再資源化:30年以上経過した古茅を400度以上で燃焼すると、炭素濃度75%以上、pH9以上の強アルカリ性バイオ炭が得られ、収率は乾燥重量ベースで25%となった。 ⑤ 茅場の維持の地域社会への影響:「西の湖」のヨシ地保全活動を主導する企業の取り組みについて参加者へのアンケートを行った結果、活動は地域の伝統文化への意識向上にも寄与していることが示唆された。五箇山管沼地区では世界遺産登録により茅場維持の仕組みは合理化されたが、住民と茅場の関係は以前より希薄化していることが茅の需給状況や茅場の管理実態から伺えた。一方、茅場の再生・活用が積極的に行われている広島県北広島町では小中学生とともに地域が一体となり茅刈りや茅場の価値再認識に取り組んでいることが奏功していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り調査を進めている。計画にある一部の調査地は未着手だが、新たに近江八幡市の琵琶湖内湖「西の湖」のヨシ地を追加の調査地とし、ススキ、カリヤスに加え、世界的に普遍し重要な茅資源であるヨシを調査対象に加えた。当地では、保全活動に対するアンケート調査や地域のヨシ製品職人へのヒアリング調査を行い、伝統的生態学的知識の把握を今後も継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①植物相と昆虫相の把握:各茅場において植物相の調査を実施し、特に牧の入茅場では昆虫相の補足調査も行う。これにより、管理形態と生物多様性の関連性を明らかにする。 ②炭素貯留機能の把握:調査地点を増やし、つくば市KEK茅場と同様の調査を実施する。これにより、茅の優占度、現存量、採取時の収量、土壌環境要因を広範に把握する。 ③昆虫食害調査:つくば市KEK茅場やその周辺の茅場で、植食性昆虫による食害量の調査を行う。特に、昆虫の大量発生や鱗翅目幼虫類による食害が茅の質に与える影響について詳しく調査する。 ④茅場利用の維持形態の把握:スキー場跡地などを茅場として利用している場所について、維持形態のヒアリング調査を行い、各地の管理手法とその効果を把握する。 ⑤伝統的知識の把握:ヨシ職人や茅葺き職人に対して、茅場(含ヨシ地)の維持管理方法、良質な茅の見分け方や利用方法についてヒアリングを行い、伝統的な技術的知見を収集する。 茅場や茅を対象に、以上の項目について重点的に調査を行う。これらの調査を通じて、茅場や茅の価値を再評価し、持続可能な管理と利用に資するための具体的な施策を検討する。
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