研究課題
以下の研究成果が得られた。(1)イヌブナのリファレンスゲノムの構築ゲノム配列の取得を目的として、イヌブナの成木1個体から葉を採取して長鎖ゲノムを抽出し、Pacbio社のシークエンサーで得られたHiFiロングリードに、アッセンブルツールhifiasmを適用してコンティグを構築した。次に、コンティグとOmni-C法で得られたショートリードに、アッセンブリツールHiRiseを適用してハイブリッドスキャホールディングを実施した。その結果、アセンブリサイズは約424Mb、スキャホールド数は417本、スキャホールドN50は約53Mb、BUSCO解析におけるコア遺伝子セットの99.1%(Single:95.0 %, Double:4.1%)を網羅する配列が得られた。最も長い配列12本は合計アッセンブリサイズが約408Mb(約96%)となり、イヌブナの基本数(12本)と一致する染色体体スケールのリファレンスゲノムを構築できた。(2)イヌブナの遺伝的多様性と集団構造および集団の歴史の解明分布域を網羅する33集団の合計392個体のDNAを用いて、ddRAD-seqでSNPジェノタイピングを行い、384個体から2,579SNPの遺伝子型データを取得した。集団遺伝学的解析を行った結果、イヌブナの遺伝的多様性はブナよりも高いことが示された。一方、集団間の遺伝的分化はブナよりも低かったが、東北(E)、中部(C)、中国・四国・九州(W)に分布する3系統に分かれる集団構造が明らかになった。2,798,254サイト(そのうち50,454がSNP)の配列データを用いてコアレセントシミュレーションを行った結果、鮮新世から第四紀更新世に起きた寒冷化による地理的分布の分断化により、まずW系統とC・Eの共通祖先系統に分化し、その後、さらに後者がCとEの系統に分化したことが推定された。
2: おおむね順調に進展している
染色体数に対応するリファレンスゲノムを構築できたこと、また、ゲノムワイドなSNPを用いて、遺伝的多様性と集団構造を解明し、集団動態の歴史を推定できたことから、概ね順調に進展していると判断できる。
リファレンスゲノムを完成させ、それを用いて、再度、遺伝的多様性と集団構造の解明および集団動態の歴史推定の解析を行う。また、適応的遺伝的変異の解明を試みる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)
Ecological Research
巻: 38 ページ: 764-781
10.1111/1440-1703.12378