研究課題/領域番号 |
23H02288
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂本 達也 東京大学, 大気海洋研究所, 海洋科学特定共同研究員 (80869165)
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研究分担者 |
瀬戸 陽一 富山県農林水産総合技術センター, 富山県農林水産総合技術センター水産研究所, 副主幹研究員 (60971322)
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70463908)
石村 豊穂 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (80422012)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | マイワシ / カタクチイワシ / 回遊 / 安定同位体比 |
研究実績の概要 |
2023年度は,日本周辺海域・ヨーロッパ海域からのイワシ類標本を季節を通じて収集するとともに,特に日本周辺のマイワシについて,その筋肉の窒素と炭素の安定同位体比(δ15Nとδ13C)の地理的・季節的傾向を調査した。 マイワシのδ15Nとδ13Cは,有意な地理的・季節的な違いを示した。これらの同位体比は、南方近海域(特に瀬戸内海など)で高く、日本海・東シナ海の縁辺海では中間的な値を示し、太平洋沖合域では低い値を示した。この傾向はPOM(植物プランクトン)の同位体比の地理的・時間的な傾向とほぼ一致していることが確認され、同位体ベースラインの変動が,マイワシの同位体値の主な規定要因であることが示唆された。したがって、イワシの栄養的段階は、南部近海域でわずかに増加する可能性があるものの、地域間で有意な差はないと考えられた。また、成魚は幼魚や稚魚に比べて地理的な変動が少ない傾向があったことから、成魚がより広範な回遊範囲を持つことが示唆された。一方、幼魚や稚魚の同位体比は、海域によって異なる変動パターンを示し,特に太平洋沖合域では、採集点よりも南側の海域のベースライン値を反映している場合が多く,北上回遊の影響が示唆された。従って,マイワシの安定同位体値は概ねベースラインの変動を強く反映して変化するが、生活史段階や海域に依存した魚の移動にも影響されることを示している。これらの結果は,今後低次栄養段階生物の同位体分布をモデル化できる可能性を示す一方で,その際には魚の移動に関して注意を払う必要があることを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本周辺およびヨーロッパ海域からの網羅的なサンプル収集が良いペースで進んでいる。同海域における同位体値の地理的な分布に関する知見の蓄積も進められており,論文として順調に発表されていることから,研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度明らかとなったマイワシにおける安定同位体比の地理的変異を踏まえ,水晶体の安定同位体比分析を用いた日本周辺海域におけるマイワシの個体群構造を解明し,その経年変化を追跡する。また同手法を日本周辺のカタクチイワシ,およびヨーロッパ海域におけるヨーロッパマイワシ・カタクチイワシへも展開することで,マイワシ類,カタクチイワシ属に共通する回遊生態の違いを理解する。さらに同手法を頑健なものとするため,耳石と水晶体の安定同位体比の比較分析を行う。
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