研究課題/領域番号 |
23H02387
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
三角 一浩 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 教授 (10291551)
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研究分担者 |
畠添 孝 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (90776874)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 軟骨 / 骨 / 関節症 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
馬における滑液由来間葉系幹細胞の分離と大量培養法の検討に関する研究では、関節内骨折等が原因で変形性関節症(Osteoarthritis: OA)を自然発症した13症例の関節から滑液を採取し、馬血清添加培地による滑液由来間葉系幹細胞(SF-MSC)の培養法を検討した。7症例より得た滑液(平均±標準偏差:4.8±2.4ml)に含まれる有核細胞を培養皿に播種して10%馬血清添加培地で9.9±0.9日の培養を行い、4.1±0.3×10^6個のSF-MSC初代細胞(P0-SF-MSC)を分離した。続いてこれらをPETフィラメント1枚当たり10,000個の細胞密度で播種して拡大培養を行い、17.7±2.7日で0.94±0.19×10^8個のSF-MSC1継代細胞(P1-SF-MSC)を回収し、ほぼ目標数に達した。一方、別の6症例で牛胎児血清添加培地を用いた対照実験では、9.5±1.4日の培養で4.0±1.2×10^6個のP0-SF-MSCを分離し、さらに11.7±1.5日の拡大培養で1.70±0.56×10^8個のP1-SF-MSCを得た。馬血清添加培地では拡大培養期間が6日間長く、P1-SF-MSC細胞数も少なかった。添加する馬血清のグルコース濃度が培養中の細胞数を推定するための指標となる培地中グルコース消費量に影響した結果、細胞増殖の予測を混乱させた可能性があり、添加する馬血清の質の安定化を図る必要があることが示唆された。 関節鏡手術時に採取した滑膜組織を細胞源にして行う『OA馬の自己由来SM-MSCによる手術後フォローアップ治療プログラム』の効果検証試験については、手術中の滑膜組織採取に伴う滑膜炎の誘発が懸念材料となってきている。特に、滑膜炎が軽度あるいは深刻でない離断性骨軟骨炎等の症例では、手術中の滑膜採取によって生じる滑膜の損傷とそれに続発する滑膜炎の持続と拡大が危惧された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
馬における滑液由来間葉系幹細胞の分離と大量培養法の検討に関する研究は当初計画よりも大幅に進展している。関節内骨折等が原因で変形性関節症(Osteoarthritis: OA)を自然発症した馬の関節からの滑液採取を、当初計画では年間5例を目標にしていたが、昨年度は13症例に基づく結果を得ることができた。そのうちの7例では馬血清添加培地による滑液由来間葉系幹細胞(SF-MSC)の培養法について、残りの6例では対照実験として牛胎児血清添加培地を用いたSF-MSCの培養法との比較により検討を行った。予備実験を終え、滑液の酵素処理過程、PETフィラメント不織布への播種密度、及び馬血清の培地への添加濃度について、前年度までに決定できたことは計画以上の伸展である。今後、添加する馬血清のグルコース濃度が培養中の細胞数を予測し難くしている点を解決することで、牛胎児血清添加培地を用いた場合と同程度の培養期間で、目標数を上回るSF-MSC1継代細胞(P1-SF-MSC)を得る方法を確定できる見通しが立った。 一方で、関節鏡手術時に採取した滑膜組織を細胞源にして行う『OA馬の自己由来滑膜由来間葉系幹細胞(SM-MSC)による手術後フォローアップ治療プログラム』の効果検証試験については、手術中の滑膜組織採取に伴う滑膜炎の誘発が懸念材料となってきている。特に、滑膜炎が軽度あるいは深刻でない離断性骨軟骨炎等の症例では、手術中の滑膜採取によって生じる滑膜損傷とその後の炎症誘発持続が危惧されてきている。そのため滑膜組織を得ることの妨げになっている現状があり、細胞移植検証のための症例数を十分に確保できていない。SM-MSCの初代細胞(P0-SM-MSC)の移植治療には500㎎程度の滑膜採取が必要であることから、十分な組織量が得られない場合には、滑液を細胞源とする幹細胞で補充する等の方策をとる必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
馬における滑液由来間葉系幹細胞の分離と大量培養法の検討に関する研究では、研究計画にしたがって、関節内骨折等が原因で変形性関節症(Osteoarthritis: OA)を自然発症した馬(少なくとも毎年5症例)から疾患関節の滑液を採取し、馬血清添加培地による滑液由来間葉系幹細胞(SF-MSC)の培養法を確立する。これまで、自己血清を得るために同一症例から500mlの採血を行ってきたが、培養開始からSF-MSC1継代細胞(P1-SF-MSC)を回収するまでの全培養期間が27.6±2.1日と牛胎児血清添加時よりも長期間を要することや、添加する馬血清のグルコース濃度が、培養中の細胞数を推定するための指標となる培地中グルコース消費量に影響する結果、細胞数を予測し難くしている可能性が生じた。これら課題を解消するために、安定した品質と量の馬血清を確保する必要があり、その方策として馬の他己血清の使用についても検討を進める計画である。令和6年度の計画では、自己または他己の馬血清添加培地を用いて、1億個のP1-SF-MSCの培養法を確立する。 関節鏡手術時に採取した滑膜組織を細胞源にして行う『OA馬の自己由来滑膜由来間葉系幹細胞(SM-MSC)による手術後フォローアップ治療プログラム』の効果検証試験については、手術中の滑膜組織採取に伴う滑膜炎の誘発が懸念材料となってきている。特に、滑膜炎が軽度あるいは深刻でない離断性骨軟骨炎等の症例では、手術中の滑膜採取によって生じる滑膜損傷とその後の炎症の誘発と持続が危惧されている。そのため、令和6年度以降は、滑膜組織の術中採取による滑膜損傷を最小限に止めるとともに、不足するSM-MSCの細胞数を組織損傷を最小限に止め低侵襲で得られる滑液を細胞源とするSF-MSCで補う、あるいはSF-MSC単独で投与することで、幹細胞移植の治療効果を検証する計画である。
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