研究実績の概要 |
(1) Rad21, NIPBL、BRD4, MED12について、CRISPERi を用いたiPS細胞のノックダウン系を確立した。SMC1Aについても同じくノックダウン系を作製したが、ノックダウン効率が十分でなかったため、ノックダウンに用いる転写開始点の見直しを進めている。 (2) 1細胞解析のための最新ツール群をまとめたDockerパイプラインShortCakeを構築した。本イメージを活用し、最新の細胞系譜解析法であるCellRank, Dynamo, CellOracleなどのツール群を用いた細胞系譜解析ワークフローを確立した。 (3) GiWi法を用いた分化実験では、約15日間でiPS細胞から心筋細胞 (Cardiomyocyte) へ分化が完了する。ここで、心筋前駆細胞(day8)を用いたシングルセルデータを生成し、解析を実施した。その結果、得られたデータの可視化において軌道様のクラスタがほとんど観測されず、ひとまとまりに固まった細胞群が観測された。このことは、iPS細胞の細胞分化の低速性により、単一時点における細胞分化状態の細胞間ばらつきがほとんどなく、むしろ単一の細胞群(ここでは心筋前駆細胞)を観測しているのに近い結果が得られていることを示している。 (4) コヒーシンに関連するタンパク質群をノックダウンした多数のサンプル群を生成し、大規模マルチオミクス解析を実施した。そのような大規模比較解析を実現するため、新規の解析手法CustardPyを開発した。本手法を用いた解析により、遺伝子発現に特に重要なゲノムの立体構造、そこで重要になる因子、エピゲノム状態との相関などを明らかにした。本成果を論文として発表した [Nakato et al., Nature Communications, 2023]。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) iPS細胞のノックダウン系について、順調に因子数を増やし、各々80%~90%以上の高いノックダウン効率を達成している。細胞分化効率が依然課題であるが、iPS実験の専門家の先生方に分化実験についてアドバイスいただきながら、分化効率を改善に向けて全力を挙げている。 (2) CellRankなどの手法を用いた細胞運命推定手法の適用可能性について検討を進めているが、複数の遷移を同時に含む場合など得られた軌道が複雑である場合に細胞運命推定がうまく機能しないことが報告されており[Bergen et al., Molecular Systems Biology 2021]、そのような複雑な軌道に対しても頑健に軌道推定するための方法を検討した。その結果、scVelo, UniTVelo, cellDancerなど異なるモデルを用いる複数のツールを用いることで、より頑健に細胞運命を推定可能であることを確認した。 (3) iPS細胞の分化系を用いたscRNA-seqデータ生成と解析のパイロット実験を達成した。 (4) 当初計画していたシングルセルデータを用いた分化軌道をより明確に観測するため、ヒト・マウスよりも発生速度の速い生物種を用いることを検討した。その結果、東京大学の中村遼平博士に協力いただき、メダカの発生系を用いた細胞運命解析を行うことで合意した。
|