研究課題
植物が乾燥ストレスにさらされると、様々なストレス応答機構を誘導する一方で、生長は抑制される(図1)。申請者らは、最近Raf型プロテインキナーゼの一つであるRaf36が、ストレス下での生長抑制に重要な働きを持つことを報告した(Kamiyama et al. 2021 PNAS)。しかし、Raf36が植物の生長を制御する分子メカニズムは不明である。そこで、リン酸化プロテオーム解析技術を用いてRaf36の基質を探索したところ、細胞膜型プロトンポンプであるAHA3およびAHA11のリン酸化レベルがraf36遺伝子破壊株で著しく減少していることを見出した。細胞膜型プロトンポンプは細胞膜電位および二次能動輸送に重要な働きを持ち、植物の生長と密接にかかわっている。以上のことから、① Raf36によるプロトンポンプの制御機構および② プロトンポンプのリン酸化と植物の生長制御の関係を明らかにするために、本研究計画を立案した。当初はRaf36の標的として、リン酸化プロテオーム解析で見つかったAHA3/11に着目していたが、その後質量分析のデータを見直したところ、植物で主要に発現しているAHA1も標的である可能性を見出した。そこで、AHA1の変異体をRaf36の変異体と比較したところ、どちらも植物のサイズが全体的に小さくなるという共通点が見られた。現在、AHA1のリン酸化部位に変異を導入し、遺伝子破壊株に戻すことで表現型が相補されるかどうかを調べているところである。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最終的な目的は、Raf36による植物の生長制御機構を明らかにすることである。リン酸化プロテオーム解析の結果からRaf36の基質候補として細胞膜型プロトンポンプ(AHA)が同定された。そこで、本研究ではRaf36とAHAの関係をタンパク質リン酸化という観点明らかにすることを目的とした。本年度は、当初予定したAHA3/11の解析に加えて、AHA1/2もRaf36の標的となっている可能性を見出し、その機能解析にも踏み込むことができた。さらに、実際に変異体を作出し、その表現型を比較することもできた。以上のことから、本研究はおおむね順調に推移していると評価した。
今後は、Raf36とAHAの変異体を掛け合わせて二重変異体を作成し、その表現型を評価する。また、Raf36とAHAの生化学的な関係を明らかにするために、リン酸化試験を実施する。AHAは幕タンパク質であり、そのままではリン酸化試験に供することは難しい。そこで、植物のプロトプラストでRaf36を一過的に発現させて、AHAのリン酸化を調べる実験を計画している。また、AHAのリン酸化部位に変異を導入した相補系統を作出しているところなので、完成次第Raf36の表現型を相補できるかどうか調べる。もし疑似リン酸化型のAHAがRaf36変異体の表現型を相補することができれば、Raf36変異体の植物サイズが小さくなった原因をAHAのリン酸化に求めることができる。さらに、AHAのリン酸化がプロトンポンプ活性に影響を及ぼすことが報告されているため、Raf36変異体におけるプロトンポンプ活性を測定するために実験系を構築する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
Asian Journal of Plant Sciences
巻: 23 ページ: 35~45
10.3923/ajps.2024.35.45
Plant And Cell Physiology
巻: 65 ページ: 259~268
10.1093/pcp/pcad146