トンボは、基本的に視覚で相手を認識するため、体色や斑紋に著しい多様性が見られる。申請者らは、トンボ成虫の体色変化メカニズムや、トンボが幼虫から成虫へ変態する際の分子メカニズムを研究してきた。その過程で、昆虫の脱皮・変態を制御するホルモンが、成虫の体色形成に密接に関与することを見出した。他の昆虫では、ホルモンの作用は全身に及ぶため、結果の解釈が複雑になることが多かったが、トンボは申請者らが確立した局所的RNAi法によって、表皮の一部でのみ遺伝子の影響を調べることが可能である。本研究課題では、申請者らが構築した機能解析系を活かして、ホルモンを介したトンボの体色形成メカニズムの分子基盤を徹底的に解明することを目指す。 2023年度は、幼若ホルモンおよび脱皮ホルモンのシグナル伝達に関する転写因子群に着目して、局所的RNAi法を用いて遺伝子の機能阻害を行い、機能阻害部位と正常部位の遺伝子発現を同じ個体で比較することで、ホルモンを介した体色形成に関わる遺伝子の解析を進めた。また、性分化に関わる遺伝子も同様に解析して、ホルモンと性分化との接点を探索した。並行して、トンボの亜終齢幼虫、終齢幼虫を中心におけるホルモン濃度の測定とホルモン生合成酵素の発現比較を進めた。さらに、トンボの視覚と紫外線反射メカニズムに関して、一般向けの書籍で発表するとともに、トンボ以外の昆虫の体色や変態に関わる遺伝子についても比較解析を行った。
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