研究課題
特異的な細胞あるいは脳・神経細胞全体にGCaMPを発現するゼブラフィッシュやその変異体を用いて、カルシウムイメージングにより、松果体光受容細胞由来の光情報の脳への投射を以下の通り解析した。(1)松果体光受容細胞の光応答特性に対する松果体オプシンの分子特性の寄与:3種類のオプシンを2種類ずつ共発現する2種類の光受容細胞(A細胞、B細胞と呼ぶ、1種類のオプシンは両細胞に共通に発現)について解析した。その結果、A細胞は、光OFF時にカルシウムの増加を示し、脱分極応答した。一方、B細胞は光ON時にカルシウムが減少し、過分極応答を示した。オプシンを1種類ずつCRISPR/Cas9による遺伝子破壊により欠損させた結果、A細胞では、共通オプシン、A細胞特有オプシンを欠損させた何の場合も、光OFF時の脱分極が減弱した。B細胞については、共通オプシンを欠損させた場合は、光ON時の過分極応答が減弱した。また、B細胞に特有なオプシンの遺伝子破壊個体の作製に成功し、現在詳細な解析中である。A細胞では、2種類の異なる分子特性を有するオプシンが加算的に働いていると考えられた。(2)神経節細胞における光応答の解明:神経細胞全体にGCaMPを発現する(1)と同様の変異体を(1)と同一の光刺激条件で解析を行なった。その結果、光受容細胞の応答プロフィールがそのまま神経節細胞において観察されることを確認した。(3)松果体光情報の脳内投射先の解明:脳全体にGCaMPを発現する変異体等を用いて、さまざまなオプシン変異体の脳内応答パターンを解析し、2種類それぞれの光受容細胞の光応答が投射する部位を、被蓋を中心に解析した。その結果、被蓋には波長検出を担うA、B細胞とは異なる松果体光受容細胞からも入力することを既に見出しているが、その入力領域とは異なる領域にA及びB細胞由来の光情報が入力し、統合される可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ゼブラフィッシュの変異体については、遺伝子破壊により3種類のオプシンそれぞれの欠損個体を、計画通り作製することに成功した。また、カルシウムイメージングについては、光受容細胞(2種類)、神経節細胞、被蓋の3箇所について、計画通りに解析を行い、データの収集に成功した。以上のことから、概ね順調に進展していると評価した。
A細胞とB細胞由来の光情報の被蓋への投射について、詳細な投射領域をさらに検討する。その際、波長情報を検出するもう1種類の光受容細胞由来の光情報の被蓋入力領域とも比較解析する。また、3種類の光受容細胞それぞれに存在する2種類のオプシンの分子特性と、光受容細胞の光応答特性との関連について引き続き検討する。視覚情報も被蓋に入力していることを予備実験により確認しているので、松果体由来の光情報と視覚光情報の被蓋での統合について、カルシウムイメージングや行動実験により、解析を試みる。
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