研究課題/領域番号 |
23H02548
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
占部 城太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (50250163)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 共生系 / ミジンコ / 微生物叢 / 宿主適応 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
「ミジンコ(Daphnia cf. pulex) JPN2系統はホロスポラ科細菌を保有することで他系統とは異なるニッチを獲得した」という仮説の検証を3年の研究期間で行う。具体的には、次の5項目を明らかにする:(1)ホロスポラ科細菌の系統的位置づけ、(2)ホロスポラ科細菌の宿主細胞内での所在、(3)ホロスポラ科細菌のミジンコ適応度への影響、(4)ホロスポラ科細菌の宿主特異性の分子機構、(5)ホロスポラ科細菌感染ミジンコの生息適域環境調査。初年度に当たる本年度は(1)~(3)を実施した。(1)について、D. cf. pulex JPN2から共在細菌叢を抽出し、16s rRNA遺伝子V3-V4領域のアンプリコンシーケンスを行うことで、細菌叢を調べた。ついで、ホロスポラ科細菌を遺伝情報に基づいて同定し、系統樹を作成した。その結果、当該ホロスポラ科細菌は、まだ報告例のない細菌種をであることが分かった。そこで、ホロスポラ科細菌に特異的なプライマーを設計し、課題 (2) である、ホロスポラ科細菌の宿主内での所在について調べた。その結果、ホロスポラ科細菌は脱皮殻や休眠卵鞘には不在であるるが、滅菌した単為卵から検出されることから、当初予想どおり、細胞内に生息していると伺われた。その具体的な確認のために、FISH用のプローブを作成し所在確認を行ったが、検出出来なかった。その原因として、FISHのプロトコルに問題があった、あるいは配列が少なく蛍光法による検出限界以下である、などが考えられたが、解決に至らなかった。この点については、翌年度以後、引き続き調べることとした。課題 (3)については予備実験を開始し、JPN2宿主が保有するホロスポラ細菌がそれを持たないJPN1宿主に水平伝搬するかを調べる実験を開始した。その結果、水平伝搬することが示唆されたが、確証を得るための実験は来年度に行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年の実験から、ホロスポラ科細菌がミジンコの特定の系統のみに生息しており、それらは腸内や表皮ではなく、細胞内に生息している可能性が高くなったことが明らかになった点は、本研究を進めるうえで大きな成果である。しかし、FISH法による検出がうまくいかず、試行錯誤を重ねたが、解決に至らなかった点は、来年度の課題となった。一方、ミジンコ種において、ホロスポラ科細菌をもつ系統と持たない系統を同所的に飼育することで、共在細菌叢がどのように変化するかを調べたところ、系統特異的な部分と交換が生じる部分が細菌叢にあることがわかった。この実験で、同所的に飼育すると、本来保有しないミジンコからもホロスポラ科細菌が検出された。しかし、これが一時的なものなのか不明であり、これも来年度の課題とした。以上のように、本年度で明らかに出来なかった課題もあるが、着実な実験成果は得られており、研究はおおむね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、FISH法を用いて、ホロスポラ科細菌のミジンコ体内での所在調査を行う。具体的には未分割卵を取りだし、必要に応じて切片を作成したり共焦点顕微鏡観察などを用いて観察したりする。 (3)については、無菌ミジンコを対象にホロスポラ科細菌に効力があるとされる複数の抗生物質を用い、(2)の方法でホロスポラ細菌の増殖が抑えられることを確認した上で、細菌除去・非除去個体を対象に飼育実験を行い、ミジンコの適応度測定を行う。2024年度後半からは、(5)を実施する。すなわち、東北・関東地域のため池で採集し、得られたミジンコの共在細菌叢と環境中の細菌叢との比較解析を行う。2025年度は、(4)について重点的に行う。具体的には、JPN2系統遺伝子型のホロスポラ科細菌の感染個体と、(3)の方法で得られるホロスポラ科細菌除去個体を用いてRNA-seq 解析を行う。抗生物質の影響により発現する遺伝子は、JPN1系統個体を同様に飼育し、対照区として用いることで評価・除外する。なお、これら実験に用いるミジンコは申請者の研究室で継代飼育されており、ミトコンドリアの全ゲノム、核については80%以上のゲノムを確定しておりライブラリーとしてすでに公開されいる。このライブラリーを用いることで、RNA-seqで得られるリードをマッピングし検体個体間で比較する。また、ミジンコ(D. pulex) では各塩基配列の遺伝子に関するアノテーションがデータベース化されており(wFleaBase)、その情報を用いることで、ホロスポラ科細菌感染下もしくはホロスポラ科細菌の有無によって特異的に発現が変化する遺伝子を同定する。以上の結果及び(5)の成果と合わせて、冒頭の仮説を検証する。
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