研究課題/領域番号 |
23H02582
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上口 裕之 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副センター長 (10233933)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | リゾホスファチジルグルコシド / GPR55 / 前頭側頭葉変性症 |
研究実績の概要 |
生体内に微量に存在する新奇グルコース脂質(Lysophosphatidylglucoside; LysoPtdGlc)とその受容体(Gタンパク質共役型受容体GPR55)の脳内炎症と神経変性における役割を明らかにするために、GPR55遺伝子ノックアウトマウスおよび前頭側頭葉変性症モデル動物(PS19マウス)を用いた研究を行った。 野生型あるいはGPR55遺伝子ノックアウトマウスの側脳室内にLysoPtdGlcを単回投与した後に、脳組織片のミクログリアマーカーでの免疫染色を行ったところ、LysoPtdGlcがGPR55を介してミクログリアの増殖・活性化などの脳内炎症応答を引き起こすことが明らかになった。 次に、側脳室内へ持続的に薬液を注入できる体内埋め込み型ポンプを用いて抗LysoPtdGlc機能阻害抗体をPS19マウスに長期間投与した。脳組織を生化学あるいは免疫組織化学で解析したところ、LysoPtdGlcの機能阻害はPS19マウスの脳内炎症応答と神経変性病理(神経細胞内でのリン酸化タウの蓄積)を軽減することが判明した。 以上の研究により、LysoPtdGlc-GPR55シグナルが前頭側頭葉変性症の病態に関与することが示唆された。生体内にはGPR55のリガンドは複数存在しうるため、PS19マウスの脳内病理に関わるリガンドがLysoPtdGlcであることを検証する上でも、本実験は重要であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究実施計画の全てを実施して「研究実績の概要」欄に記載の成果を得たため。
|
今後の研究の推進方策 |
LysoPtdGlc-GPR55シグナルを介してアストログリアが産生を亢進する炎症生サイトカインを同定するための実験を行う。野生型または前頭側頭葉変性症モデル動物(PS19マウス)の脳組織から培養したアストログリアにLysoPtdGlcを添加して、炎症性サイトカインの発現量をデジタルPCR法により定量する。次に、GPR55阻害剤で処理した培養アストログリアにLysoPtdGlcを添加した前後の炎症性サイトカインの発現量を同様に定量して、GPR55依存的にLysoPtdGlcが惹起する炎症応答を同定する。これまでの研究により野生型と比較してPS19マウスの脳組織で発現が増加する炎症生サイトカインは同定済みであるが、これらの炎症生サイトカインの発現亢進がGPR55シグナル依存的であるか否かを明らかにするための実験を行う。具体的には、PS19マウスにGPR55阻害剤を長期間投与して、上記の炎症生サイトカインならびにミクログリア/アストログリアの細胞数と細胞形態への影響を評価して、PS19マウスin vivoにおけるGPR55依存的な脳内炎症応答を同定する。上記の実験でPS19マウスの脳内炎症応答を抑制することが示されれば、その効果を有するGPR55阻害剤を同マウスへ長期間投与して、前頭側頭葉変性症の神経変性病理(特に不溶性タウの蓄積)を評価する。以上の実験により、LysoPtdGlc-GPR55シグナルの病的意義を明らかにし、前頭側頭葉変性症の治療薬開発に寄与しうる基礎研究成果の創出を目指す。
|