研究課題/領域番号 |
23H02609
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
大高 章 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (20201973)
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研究分担者 |
傳田 将也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 助教 (00813891)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 保護システインスルホキシド / 保護システイン / 側鎖修飾 / トリプトファン / チロシン / ジスルフィド結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、ペプチド合成の副反応物として見出されたS-保護システインスルホキシドを利用したアミノ酸側鎖の修飾反応について検討を加えた。まず、前提条件としてシステイン上のS-保護基は、酸性条件下、カチオンとして脱離する性質がある。このカチオンとしての脱離をS-保護基および酸性反応条件を調節することで、修飾残基選択性を発現させることが本研究の大きな課題となる。S-保護基としてp-メトキシベンジル(MBzl)基を利用するとトリフルオロ酢酸(TFA)中、塩酸グアニジンを存在させることでMBzl基を有する保護システインスルホキシド(Cys(MBzl)(O))は、S-クロロシステインに変換され、これはトリプトファン(Trp)のインドール側鎖と選択的に反応することを見出した。一方、S-保護基をアセトアミドメチル(Acm)基にしたCys(Acm)(O)はTFA中トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(TMSOTf)の作用により、S-保護基が残ったS-スルフェニルスルホニウムカチオンに変換され、これはチロシン(Tyr)のフェノール側鎖と選択的に反応することを見出した。さらに前述のS-クロロシステイン種はS-保護システインとも反応し、ジスルフィド結合を形成することが明らかとなった。総括すると、Cys(MBzl)(O)はS-クロロシステインへ変換され、TrpおよびS-保護システイン側鎖の修飾試薬として、さらにCys(Acm)(O)はS-スルフェニルスルホニウムカチオンに変換され、Tyr側鎖の修飾試薬として機能することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述したように、Cys(MBzl)(O)はS-クロロシステインへ変換され、TrpおよびS-保護システイン側鎖の修飾試薬として、Cys(Acm)(O)はS-スルフェニルスルホニウムカチオンに変換され、Tyr側鎖の修飾試薬として機能することを明らかにした。まず、Trpの修飾反応については、その応用展開として糖尿病治療薬として注目を集めているGLP-1のTrp選択的脂肪酸修飾に応用展開し、合成品が市販品と同等の活性を有することを明らかにした。次にS-保護システインとの反応を経由したジスルフィド結合形成反応については、S-クロロシステイン種の生成を段階的に調整できる条件を見出すこと、さらに各条件において選択的な反応パートナーであるS-保護システイン種を同定、この新たな知見を基盤としてインスリンの従来にない手法での全合成に成功した。Cys(Acm)(O)を利用する反応については、反応条件を変化させることで、Cys(Acm)(O)はTrp修飾試薬としても、さらにTyr修飾試薬としても機能することを見出して、側鎖Cys-Tyr間に架橋を有し、かつTrp上に脂肪酸修飾をもつGLP-1誘導体のOne-pot合成を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
Cys(MBzl)(O)およびCys(Acm)(O)のTrp, Tyr, S-保護システイン修飾試薬としての有用性をさらに高める検討を行う。現在修飾反応はペプチドレベルにとどまっているので、これをタンパク質レベルまで引き上げる。 システインの誘導体であるジメチルシステインに相当するペニシラミンについてもそのS-保護システインスルホキシド体が上述と同様の反応性を示す基礎データを得つつあるので、このさらなる展開を検討する。 反応生成物の一つであるCys修飾Tyrは、天然修飾タンパク質に見出される構造体である。そこでCys修飾Tyrを含有するタンパク質の全合成を検討する。 さらにCys修飾Tyr構造は容易にラジカル的二量化反応を受けることを見出しつつあり、Tyr二量化ペプチド新規合成法への展開を目指す。
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