研究実績の概要 |
本年度は、放線菌が生産し、抗菌薬としても利用されている天然薬物、リンコサミド化合物群の生合成酵素を取り上げる。リンコマイシンA およびセレスチセチンの生合成中において、生物活性に重要なチオオクトース部位の硫黄原子の導入に関わる酵素群、糖転移酵素 LmbT/CcbTに着目し、酵素の基質特異性の検討、X線結晶構造解析を行った。基質であるGDPの類縁化合物として、ADP、CDP、IDP、UDP、TDPを用いて反応を行ったところ、TDP以外の化合物を基質として認識し、生成物を与えることが判明した。さらには、糖構造の認識の検討として、GDP-mannose, GDP-fucose, UDP-glucoseを用いて反応を行ったところ、これらは基質として受け入れられないことが見出された。以上の基質特異性の検討から、LmbTは、GDPの塩基部分においては比較的寛容な選択性を示すのに対し、糖構造やEGT部分は固く認識していることが明らかとなった。また、LmbTのX線結晶構造解析に着手した。LmbTのアポ体構造と、EGTとGDPが結合した複合体構造、2種類の構造の取得に成功した。これら二つの構造の比較から、基質の結合により全体構造のコンフォメーション変化が起き、活性部位構造を変化させることを見出した。さらに、活性部位において相互作用を形成する残基の重要性を明らかとするために変異体実験を行った。その結果、ほぼ全ての変異体で活性が低下し、基質-酵素間の相互作用が基質の結合、触媒活性に重要な役割を担っていることが確認された。最後に、これら酵素立体構造解析と変異体解析の結果から、LmbTのS-糖転移反応の詳細な反応機構を提唱した。
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