従来サイズの素材と比較して、優れた有用機能を有する人工ナノ粒子が開発され、医療領域を含む多方面で実用化されている。一方で、生活環境中の人工ナノ粒子のハザードや動態の解析といった安全性評価は未だ不十分である。特に、化学物質に高感受性な脆弱世代に対する安全性評価が世界的に急務となっている。そこで本研究では、身の回り品における使用量が最も多い非晶質ナノシリカをモデルナノ粒子として用い、人工ナノ粒子の動態情報に基づく脆弱な個体に対する健康影響およびその発現メカニズムの解明を目的とした。人工ナノ粒子が胎児へ移行するうえでは、血液胎盤関門を突破・通過する必要がある。まず、非晶質シリカが胎盤の栄養膜細胞に取り込まれるかを評価したところ、粒子径の違いによらず、ヒト絨毛癌細胞株JEG-3細胞内に時間依存的に取り込まれることが示された。一方で、4℃条件下において、その取り込みが減少し、また、エンドサイトーシス阻害剤の前処置により、非晶質シリカの取り込み量が減少することが明らかとなった。従って、JEG-3細胞において、非晶質シリカは粒子径の違いによらず、エンドサイトーシス経路によって取り込まれることが示唆された。さらに、いずれの非晶質シリカにおいても、リソソームマーカーであるLAMP1との局在に相関を示すことが明らかとなり、JEG-3細胞内に取り込まれた非晶質シリカはエンドサイトーシスの分解経路に運ばれ、多くの粒子がリソソームに局在していることが示唆された。従って今後、非晶質シリカが胎盤細胞におけるリソソームの機能等に及ぼす影響を評価し、胎盤におけるナノ毒性の解析を試みる。
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