研究課題/領域番号 |
23H02681
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
小亀 浩市 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (40270730)
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研究分担者 |
樋口 由佳 (江浦由佳) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (30443477)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 血液凝固 / von Willebrand因子 / ノックインマウス |
研究実績の概要 |
本研究は、止血タンパク質の発現多様性に着目し、止血機能および止血以外の機能に関する知見を蓄積するための基礎研究である。特にモデルタンパク質としてvon Willebrand因子(VWF)に重点を置く。VWFは、血小板凝集と血液凝固因子の安定化により止血を促進するタンパク質である。巨大マルチマーを形成する分子特性が機能発現に効果を発揮すると同時に、生物学的解析の困難性をもたらす。これまで主に血管内皮細胞と考えられてきたVWF産生部位に関し、全ての血管内皮が一様に発現するわけではないこと、心臓ではほぼ心内膜のみに発現することが最近判明した。本研究では、VWFにタグ配列を融合したマウスを新たに作製して解析する。令和5年度は、これらのマウスの作製と心内膜細胞の解析技術の確立を目指した。まず、種々の蛍光タンパク質融合VWFを発現するノックインマウスの作製を試み、VWF-mCherryノックインマウスの樹立に成功した。しかし、同時に計画していたVWF-mGreenLanternノックインマウス等の作製は、繰り返し実施したものの難航し、現時点でまだ得られていない。その原因は不明であるが、解決策として短鎖ペプチドタグ配列を融合したノックインマウスの作製を試み、樹立に成功した。これと並行し、心内膜細胞のVWFを解析するための準備に着手した。まず免疫組織化学的解析を行い、マウス心内膜に実際にVWFが局在することを確認した。次にマウス心内膜細胞の単離を試みたが、ラット向けの既存の単離方法では非常に困難であることが分かったため、現在、心内膜細胞以外の細胞の遊離を最大限に抑えるための酵素液暴露方法や酵素の種類等の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、種々の蛍光タンパク質融合VWFを設計し、それらを発現するノックインマウスを作製する計画を立てていた。そこでまず、赤色蛍光タンパク質mCherryの直接融合でVWFの構造・機能に影響が出ない位置を予測し、培養細胞発現でマルチマー形成を確認した。ゲノム編集によりVWF-mCherryノックインマウスを作製し、ホモ接合性マウスも獲得することができたので、これを用いた血漿VWFの解析を開始した。このストラテジーを土台にして緑色蛍光タンパク質を融合したVWF-mGreenLanternノックインマウス等の作製も開始したが、思いのほか難航し、現時点でまだ目的のマウスを得られていない。その原因は不明であるが、解決策として短鎖ペプチドタグ配列を融合したVWF-HAノックインマウスおよびVWF-V5ノックインマウスの作製を試み、樹立に成功した。これと並行して、心内膜細胞におけるVWFの解析に着手した。まず、野生型マウスおよびVWF欠損マウスを用いて免疫組織化学的解析を行った結果、野生型マウスの心内膜において抗VWF抗体に対する特異的染色が観察された。次に、マウス心内膜細胞の単離を試みた。開始前はラットやブタでの既存の単離方法の小変更で実施可能と予想していたが、実際にはラット比1/20程度のサイズのマウス心臓では非常に困難であることが分かった。そこで現在、心内膜細胞以外の細胞の遊離を最大限に抑えるための酵素液暴露方法や酵素の種類等の検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
作製したタグ融合VWFマウスを利用してVWFの解析を進める。そのために、マウスの血管内皮細胞・心内膜細胞を培養し、平常時や感染時等のVWFの動態を調べる。血管内皮細胞は大動脈から単離するか、血液中のendothelial colony forming cells(ECFC)を単離培養する。さらに、個体レベルの解析も行う。VWFは主に血管内皮細胞で産生されるが、一部は巨核球や心内膜細胞で発現する。血栓形成に使用されるVWFとして、血漿VWF(血管内皮/心内膜細胞から恒常分泌?)、血管内皮細胞から緊急分泌されたVWF、血小板活性化で放出されたVWFなどが想定されるが、どのVWFがどの段階で止血に寄与するのかは謎である。本研究で作製する複数種のタグ融合VWFマウスを活用し、血栓形成におけるVWFの起源と役割の関連を明らかにする。これらのマウスを用いた骨髄移植実験も行う。一方、心内膜VWFの意義を明らかにするため、今後も引き続き、心内膜細胞単離方法の検討を進める。マウス心内膜細胞の単離方法が確立できれば、心内膜研究にとって有用である。また、心内膜細胞に発現するVWFの性状(マルチマー様式や血小板結合性など)についても検討する予定である。そのためにはVWF供給源として知られる血管内皮細胞および巨核球/血小板由来のVWFを用いた比較解析が有効であると考えている。心内膜細胞に発現するVWFの特異的機能を知るため、心内膜細胞と血管内皮細胞それぞれのWeibel-Palade小体(WPB)に含まれる因子の比較やVWF相互作用タンパク質の同定などを進めたい。
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