研究課題
抗原特異的な液性免疫機構を調節する濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)はB細胞を芽球化して胚中心形成を促進し、形質細胞や記憶B細胞の発達に関わる。近年、血液中に存在する記憶型Tfh細胞サブセットと様々な免疫関連疾患の病態との関係性が示され、多段階の分化様式とともに可塑性を伴うTfh細胞が疾患病態の形成にどのように関与しているのか注目を集めている。このような背景から、本研究では病理組織中のTfh細胞の多様性や運命を制御する機構を解明し、炎症組織におけるTfh細胞の病的役割を明らかにすることを目的としている。以前に我々は、Tfh細胞がB細胞と同様にBob1(Pou2af1)転写調節因子を高発現している事実を見出していたが、その機能的な意義は明確ではなかった(Eur J Immunol 2016)。ゲノム編集技術を用いてCD4特異的なBob1コンディショナル欠損マウスを作出して外来抗原に対する液性免疫応答を解析し、またコンジェニックマウスによるTfh細胞の細胞移入実験やFoxP3(GFP/DTR)遺伝子型を有するBob1コンディショナル欠損マウスを用いてBob1の制御性濾胞ヘルパーT細胞(Tfr細胞)への影響などについても検討を重ねた。その結果、Bob1は記憶Tfh細胞の機能維持に重要な働きを有し、長期の液性免疫応答を制御していることが明らかとなった(Commun Biol 2024)。ダニ抗原(HDM)の連続投与による気管支喘息モデルを用いた解析から、HDM特異的IgE抗体の発現維持にTfh細胞のBob1が関与していたため、Bob1はアレルギーなどの免疫関連疾患の新たな標的となりうることが示された。記憶Tfh細胞に関する我々の研究結果を踏まえ、今後も継続して当初予定された研究を推進し本課題を展開したい。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者(一宮)が本研究課題の実施と総括を担当し、当教室の池上助教の指導のもと大学院生の柳、佐藤、菅谷のマウスモデルによるTfh細胞の研究が予定通りに行われた。記憶Tfh細胞におけるBob1転写制御因子の機能的意義を報告することができ、さらなる解析を進めている(Commun Biol 2024)。佐藤は当講座で樹立したCD4特異的なIL-9受容体欠損マウスの解析を行い、脾臓などの2次免疫組織におけるILC2が産生するIL-9がTfh細胞を活性化している可能性を示した。菅谷はBob1の下流にあるシトルリン化に関わるPad4に注目し、CD4特異的Pad4欠損マウスの樹立と解析、四重極質量分析装置を用いたTfh細胞に含まれるシトルリン化プロテオーム解析を行っている。また亀倉講師の指導によるIgA腎症の病巣性扁桃の解析を進め症例を重ねることができたため、臨床材料を用いた研究は予定通りに進んでいると考えている。
研究課題の申請書に記載した研究計画を引き続き実施し、昨年度に得られた研究成果も踏まえながら本研究課題を展開したい。マウスモデルの研究によりTfh細胞の新たな制御機構が示され、興味深い成果が集積しつつある。マウスモデルから導かれた結果に基づいて臨床検体のTfh細胞の研究を行い、今後もこのような循環型の研究を進めたい。今年度から2名の大学院生が本研究課題のプロジェクトに参画してくれたため、2光子顕微鏡を用いたライブイメージングの研究など、本学の教育研究機器センターに整備されている大型機器を使った解析をさらに推進したい。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件)
Communications Biology
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