研究課題
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を使ったがん免疫療法は、おおむね10%-40%程度の奏効率を示す。細胞傷害性T細胞 (CTL) 浸潤が多い症例ではICIの有効性が高いとされている。しかしながら、腫瘍へのCTL浸潤は万能のバイオマーカーではなく、腫瘍に浸潤するCTL(腫瘍浸潤リンパ球:TIL)の特異性が問題となる。本研究では、組織学的なTIL浸潤形態と、TILの抗原特異性および免疫学的特性の融合を行う。さらに、組織上においてin situ hybridization 法などを用いて、特異的なTCR遺伝子配列が組織上でどの場所に存在するか解析する。TCR遺伝子配列に紐付けられた、抗原特異性、T細胞機能、組織学的情報を組織上に落とし込み、組織学と免疫学の統合を試みる。本研究において、悪性黒色腫症例で、腫瘍に浸潤するリンパ球 (TIL) 、および、致死性irAE肝炎を来した症例で肝臓に浸潤するリンパ球解析を行っている。合計30種類程度のTCRを選択し、TCR導入T細胞(TCR-T細胞)を作製し、抗原特異性を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、CTLが病態に関わると考えられる症例の解析を行っている。具体的に、ICI治療悪性黒色腫症例およびirAE肝炎症例である。ICI治療悪性黒色腫症例では、ICI奏功例および不応例のTILをsingle cell TCR 解析行うと同時にsingle cell RNA-seq 解析を行った。その結果、ICI奏功例および不応例いずれにおいても、疲弊T細胞が存在する事が明らかとなった。また、single cell TCR解析から得られたTCR配列をもとに、疲弊T細胞由来TCRを導入したTCR-T細胞を作製した。合計20種類のTCR-T細胞を作製している。これらのTCR-T細胞が悪性黒色腫を認識するか、フローサイトメーターにて検討した。その結果、ICI奏功例においても、ICI不応例においても、TILから分離したTCRは自己の悪性黒色腫細胞特異的であることが判明した。この結果から、例えICI不応例であっても、腫瘍局所には腫瘍特異的TIL浸潤がみられているということが判明した。ICI不応例は抗PD-1抗体で治療された症例である。すなわちこの結果は、同症例において、PD-1が免疫からの逃避に重要な働きを担っていなかった可能性を示唆する。また、致死性irAE肝炎症例において、肝臓浸潤リンパ球からTCR-T細胞を作製し、肝芽腫細胞株 HepG2細胞の反応性を検討した。その結果、irAE肝炎において肝臓に浸潤するリンパ球は、HepG2細胞反応性TCRを有する事が判明した。この結果は、irAE肝炎の原因となった病的T細胞は、なんらかの抗原を認識していた可能性を示唆する。
上記、悪性黒色腫症例において、腫瘍特異的反応を示したT細胞および、irAE肝炎症例において、肝芽腫特異的反応を示したT細胞が認識する抗原は、おのおのの病態を理解する上で重要な情報となる。今年度において、これらのT細胞が認識する抗原を、TCR-T細胞を用いてスクリーニングする。具体的には、悪性黒色腫症例では、悪性黒色腫細胞からcDNAライブラリを作製する。また、irAE肝炎症例では肝芽腫細胞株 HepG2からcDNAライブラリを作製する。これら作製したcDNAライブラリを用いて、TCR-T細胞が認識する抗原スクリーニングを行う。また、TCR配列をもとに、in situ hybridization プローブを作製し、アッセイを行う。TCRの抗原特異性情報、TCRを有する細胞のT細胞フェノタイプ、TCRの組織上での配置の3情報を統合する。組織上において、T細胞機能を解釈する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件)
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