研究課題
我々は、CRISPR/Cas9システムを用いたノックアウトスクリーニングにより、炎症性サイトカインの一つIL-6の発現抑制に関わると考えられる新規因子としてZAIPを見出した。ZAIPは約130kDaのタンパク質であり、ZFドメイン以外に既知の機能ドメインとの相同性は示さず、その機能については不明である。ZAIP欠損マクロファージを樹立し、解析を行ったところ、野生型細胞と比較してLPS刺激に対し100倍以上ものIL-6発現が認められた。細胞内局在を調べたところ、LPS刺激に応じて核内に集積したことから、LPSによる炎症応答制御に関わる可能性が示唆された。さらに、ZAIP欠損細胞ではヒストンH3K4モノメチル化(H3K4me1)が亢進しており、ZAIPはヒストン修飾を介してLPS誘導性遺伝子の発現制御を行っていることが示唆された。また、ZAIPに結合タンパク質の同定を行ったところ、ヒストンメチル化酵素複合体であるCOMPASS複合体の構成因子を得た。したがって、ZAIPはエンハンサー領域のヒストン修飾制御を行うことでIL-6等の炎症関連遺伝子の発現制御を行う炎症抑制のマスター因子である可能性が考えられた。今年度、LysM-Creマウスを用いて、マクロファージ・好中球特異的にZAIPを欠損するコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを樹立し、解析を開始した。ZAIP cKOマウスでは野生型と比してLPS投与後のIL-6増加を認め、敗血症により早期に死亡した。また、コラーゲン誘導型の関節リウマチモデルを用いて解析した結果、ZAIP cKOでは顕著な関節の腫脹を認めた。これらのことから、生体内においてもZAIPが炎症抑制に働いていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
マクロファージ特異的にZAIPを欠損するコンディショナルマウスの樹立に成功し、その表現型についての解析を開始した。その結果、ZAIP欠損マウスにおいて炎症の亢進を認める知見を得ることができた。また、ZAIP欠損細胞において発現が顕著に誘導される遺伝子についてもRNA-seqを用いて網羅的に解析を行い、ZAIPにより制御される遺伝子群をリスト化することができた。
ZAIPが制御するゲノム領域をChip-seqにより特定し、標的となる炎症関連遺伝子の特定を目指す。また、マクロファージ特異的にZAIPを欠損するマウスを用いて、敗血症、乾癬、関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎等の疾患に対する感受性の検討を行う。また、ZAIPをT細胞やB細胞で欠損するマウスの作成も行う。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
International Immunology
巻: - ページ: -
10.1093/intimm/dxae024
Immunity
巻: 57 ページ: 649~673
10.1016/j.immuni.2024.03.004
The EMBO Journal
巻: 42 ページ: -
10.15252/embj.2022112573