研究課題/領域番号 |
23H02726
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白銀 勇太 九州大学, 医学研究院, 講師 (40756988)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 麻疹ウイルス / SSPE / CADM / シス受容体模倣因子 |
研究実績の概要 |
SSPE患者から分離されたMeV(Patient B株およびOSA3/Bs/B株)のFタンパク質のアミノ酸アライメント解析を行い、野生型には認められない多数の変異が獲得されていることを明らかにした。このような多重変異F遺伝子では、神経シス受容体模倣因子CADM1/2が存在しなくても細胞融合が誘導された。更に、CADM以外の未知の受容体について、融合を誘導できる候補遺伝子を複数同定した。CADM1/2の発現していない培養細胞においても多重変異Fでは細胞融合を誘導できること、CADM以外の候補宿主因子遺伝子の一部を複数ノックダウンすると細胞融合が抑制されたことから、MeVがF遺伝子に変異を蓄積させることで受容体として利用できる宿主因子のレパートリーを増やし、脳内での増殖が有利になるようにSSPE患者の脳内で進化したことが示唆された。これらのデータは麻疹ウイルスが神経病原性を獲得するメカニズムの解明に寄与するとともに、エンベロープウイルスの融合遺伝子変異による種の壁の突破や免疫回避における進化ポテンシャルについて重要な示唆を与えるものである。 その他、CADM利用能に重要なMeV受容体結合タンパク質Hの領域がストーク領域の171番目から175番目のアミノ酸に存在することを確認した。また、SSPE分離株に認められるCADM利用能を高めるH遺伝子の変異の同定や、CADM分子がMeV以外の神経病原ウイルスによる膜融合を誘導することについて予備データを得た。さらに、SSPE患者血清によるMeV中和能が、F遺伝子の変異によって弱まることを融合アッセイ系を用いた実験により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度はMeV多重変異によるCADM1/2以外の受容体利用能拡大メカニズムの解明が想定を超えるペースで大きく進み、新たな宿主因子の候補遺伝子を同定することができた。また、中和抗体エスケープに関与するF変異の解析を予定通り実施することができた。一方で、協調と干渉に関するF変異の進化的意義の検証についてはあまり進んでおらず、今後の解析が待たれる。上記を総合し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はMeV多重変異Fにおける受容体利用能拡大について、新たな受容体候補遺伝子について神経病原性への関与を解析し、論文としてまとめたい。また、中和抗体エスケープに関しては、F遺伝子変異のみではなく、H遺伝子変異の評価も実施し、MeVが脳内でどのように中和抗体から回避しているかのメカニズムの解明につなげたい。また、多重変異Fに関して、野生型Fとどのように機能的に相互作用するのか、またその相互作用が受容体利用能や免疫回避にどのような影響を与えるのか、解析を進めたい。
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