研究実績の概要 |
効果的なワクチンや治療薬が存在しないウイルス感染症に対しては、ウイルスの複製機序や病原性発現機構を理解し、治療標的を特定する基礎研究が重要である。本研究では、ヒトが本来有する内因性免疫による宿主防御メカニズムを詳細に紐解くことで、ウイルス感染症に対する予防戦略の確立を目指す。本年度は、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対する、未知の宿主防御メカニズムの解明を目指した。SARS-CoV-2は呼吸器以外の臓器にも感染し、多岐にわたる影響を及ぼすことが知られている。そこで我々は、さまざまな臓器由来の細胞・オルガノイドに、SARS-CoV-2デルタ株、オミクロン株(BA.1, BA.2, BA.2.75, BA.5, XBB.1系統)を感染させたところ、肺由来の細胞においては、デルタ株、オミクロン株ともに増殖効率が高かった。一方、ヒト腸管オルガノイドにおいては、デルタ株と一部のオミクロン株(BA.2.75系統)は高い増殖効率を示したのの、その他のオミクロン株は感染はするがほとんど増殖しないことを見出した。また、SARS-CoV-2感染腸管オルガノイドからは多様なサイトカインが分泌されており、とくにインターロイキン6の分泌量はウイルスの増殖効率と相関し、腸管への感染に伴う顕著な炎症反応が示唆された。反対に、インターフェロンラムダ2(IFN-λ2)の分泌量はウイルスの増殖効率と逆相関することが分かった。デルタ株の感染時にIFN-λ2を添加すると、ウイルス増殖が顕著に抑制された。また、IFN-λ2中和抗体をBA.2感染時に添加するとウイルス増殖が亢進した。これらの結果から、IFN-λ2は腸における内因性免疫の働きを高め、SARS-CoV-2感染抑制に重要な役割を果たすことが示唆された。
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