研究課題
エピソード記憶は、新奇経験中の多様な感覚情報が作る複数の文脈情報で構成されている。また、新奇経験の情報は、経験中に活動した神経細胞の一部が再活動する形で経験後の睡眠中に表出(リプレイ)し、写真や日記のように定着すると考えられる。これらは、新奇経験中に知覚され認知された多様な情報の内、定着すべき文脈情報を選択的にリプレイさせ、エピソード記憶を統合・定着させる機構が存在することを推測させる。さらに、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経修飾因子は、新奇経験中に出現した活動を修飾し記憶情報を強化すると考えられているが、睡眠中の記憶の定着への寄与は不明である。そこで本研究では、新奇経験中の神経修飾因子の機能を介し、経験時の多様な感覚情報の中から定着すべきエピソード記憶情報を選択的に統合し定着させる神経基盤を解明する。得られる知見は、脳の重要な認知機能の一つである、一次感覚情報を高次認知情報へと変換する作動原理の理解に繋がる。今年度は、新奇経験中に感知された多感覚情報を統合し、記憶情報へ変換する脳の広域システムを、マウスの大脳皮質広域脳波の多点計測によって検討してきた。この過程で、聴覚刺激に対する応答は当初聴覚野で顕著に出現するが、複数の感覚刺激の繰り返し提示により聴覚野のみならず他の感覚野でも聴覚刺激に対する異所性応答が出現する傾向を確認した。これは、複数の感覚モダリティー情報を含む新奇経験の記憶形成時に、多感覚情報を統合し認知機能へ変換する脳の生理学的機構であると推測される。
2: おおむね順調に進展している
マウスの大脳皮質広域脳波の多点計測によって、複数感覚入力を含む新奇経験中に感知された多感覚情報を統合する脳の広域システムの一端と考えられる、単一感覚刺激に対する複数感覚野の異所性応答の出現を確認し、また、大脳皮質広域脳波と海馬のカルシウムイメージングを融合した脳活動の広域計測法が確立したため。
次年度は、経験時の多様な感覚情報を選択的に統合しエピソード記憶を成立させる、複数の感覚野のネットワークと海馬で記憶を司る神経細胞の協調的活動の実体を、皮質多点脳波と海馬のカルシウムイメージングを融合した計測システムを用いて生理学的に解明する。
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Molecular Brain
巻: 16 ページ: 38
10.1186/s13041-023-01019-9
https://sites.google.com/view/ninchi-kioku